カラカラカラカラ

風車(かざぐるま)の回る音が聞こえる

カラカラカラカラカラ

草の1本も生えていない。そこに広がるのはただ何もない河原。
さて、ここはいったい・・・?







シャーマンシンジ・外伝
ミサト育成日記

〜引越し初夜のこと〜





「・・・・・ここ、どこ?」

カラカラカラカラ

相変わらず聞こえてくるのは風車の回る音。耳を澄ませば、

かちっかちっ

と、小石を積み上げる音も確かに聞こえる。だが、ただそれだけ。
遠くを見渡せば、川岸には小船が1艘(1そう)。向こう岸には何があるのだろうか?

ジャリッ

不意に、後ろに人の気配が。

「ここは賽(さい)の河原。あの世とこの世の境目だよミサト」
「シンジ君・・・・」

ついて来い、と言わんばかりにシンジは歩き出す。ミサトは黙ってついていく。
どのくらい歩いただろうか?小さい、そう子供のような人影が見えてきた。
それに混じって、とても大きな影も見える。

かちっかちっかち

という音もだんだんハッキリと聞こえるようになってきた。
それと共に、

『1つつんでは父の為。2つつんでは母の為。3つつんではふるさとの・・・・』

と言う声が聞こえるようになってきた。

かちっかちっかち

子供達は、黙々と小石を積み上げる。
だが、ある程度まで積み上げると、

ブンッ

がしゃん

大きな影がそれを壊す。
大きい方は金棒を持った鬼だった。

「ほら、よく言うだろ?親より先に死ぬような親不孝者は、
 賽の河原で石を積み上げなければいけないって。
 でも、その石塚は完成しない。鬼が壊すから。だから、彼らは永遠に救われない」

それでも、彼らは黙々と石を積み上げる。

「さて、行こうか」

シンジは又歩き出す。ミサトはただついて行く。






小船のところまで戻ってきた2人。

「今のミサトでは、地獄に行くことはできない。
 僕が連れて行くこともできるけど、多分耐えられないだろうね」
「耐えられない?」
「心が凝り固まっているから。力のある人間なら、それでも大丈夫なんだけど、
 ミサトはまったく力がないし、僕もそこまで強いというわけではないから、
 地獄に入った途端、多分お前の魂は消滅する」
「!!!!」
「だから、今日は地獄までは行かない。というか、あの世の手前までだね」
「あの世の手前って?」
「だから、向こう岸だよ」

そう言って、シンジは指をさした。確かに、向こう岸は見える。が、
それは遥か遠く。いったいどのくらいの距離があるのか。

「例えば、湖とかに行って、ボートに乗って、オール1つで端から端まで横断した場合、
 ため池みたいに小さな湖でも、結構体力つかうだろ?それと同じで、
 ここでは幽体になっているから、体力の代わりに霊力を使う。
 運動すれば体力がつく。ここでは変わりに霊力がつくんだ。
 ほら、よく事故で臨死体験した人が力に目覚めたり、とかいうのがあるだろ?」
「聞いたこともあるような・・・」
「まぁ、普通は気が付いたら向こう岸いるのが殆どだから、ここにいる間は余り力はつかない。
 ただ、『死んだおばあちゃんに説得された』とかの理由はあるにしろ、
 死んで楽になることよりも、苦しみながらも生きることを自分で選ぶ。
 それで一皮向けて、力に目覚めるんだ。もっとも、一度力に目覚めれば、
 ただ死んで生き返るだけで、かなり力が強まるようになるけどね」

シンジはそう言って水面を歩く。5メートルくらい進んだだろうか。
しかし、水面に立ったまま、体は少しも沈む様子を見せない。

「何してるのさ?時間無いんだから、早く舟に乗って」
「わ、分かったわ」








ミサトは舟を漕ぎ続ける。シンジは、その横を歩いている。

「ミサトの場合は、自力で向こう岸まで行くから、
力も結構つくと思う。普通よりはね。だからほら、頑張って」
「任せといてよ、シンジ君。だてに作戦部長やってるわけじゃないわ」




ミサトは舟を漕ぐ。ようやく半分くらいまで来ただろうか
(確かに、結構疲れるわね。もし、ここで力尽きたらどうなるのかしら?)
ミサトがそう思ったとき、シンジが言った。ちなみに、と

「もしここで力尽きたら、そこら辺にいる鬼達に捕まって、喰べられちゃうよ。
 もっとも、僕がここにいるから、力尽きちゃったら、有無を言わさず生き返らせるけどね。
 修行は強制終了で、力も本来の半分もつかないんじゃないかな?」









「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

(もう少し、もう少しよミサト。こうなったら、意地でもたどり着いてやるんだから)
あと50メートルを切っただろうか。ミサトは、もはや気力のみで漕ぎ続ける。

「ほら、もう少しだから頑張って」
「はぁ、はぁ、はぁ」

岸はだんだん近づいてくる。そして

「や、やっとついたぁ〜」
「お疲れ様、ミサト」

舟から降りたミサトは、河原に大の字に寝て、肩で息をしている。
そろそろ帰ろうか。そうシンジが言おうとした時

「ミサト・・・」
「え?」

声のした方を見ると、一人の男が立っていた。

「ミサト」
「・・・・お父さん、なの?」

飛び起きるミサト。目には涙さえ浮かんでいる。

「ミサト、こっちにおいで」
「お父さん!」

駆け出そうとしたその時

「動くなミサト!」

シンジが腕を掴み制止をかける。

「シンジ君、じゃましないでよ!」

ミサトの顔は、怒りに歪む。

パンッ

シンジは、頬を叩いた。

「ミサト、よく見てみろ。クルハ」
「え?」

ボッ

燃え上がる『お父さん』。しかし、

「ぐぎゃーあぁおヲヲぁああ・・・・・」

燃えるその姿は、人のそれではなかった。

「今のは鬼だ。お前喰われるところだったんだぞ」
「あっ・・・」
「やっぱり、今のお前では地獄には耐えられない。力云々じゃない。心が弱いんだ。
 このままじゃ、地獄だけじゃない。現世でもろくな事にならないぞ」
「ごめん・・なさい」
「謝らなくていい。これから直せばいいんだしね。
 それに、すぐにとはいかないけど、
 修行をすれば、いずれ自分の力で『お父さん』に逢える様になるだろうね」
「本当に?私にできるかなぁ?」
「もちろん」
「・・・・ありがとう、シンジ君」

そう言って、ミサトはシンジを抱きしめた。シンジも、ミサトの背に腕を回す。

「さ、家に帰ろうか?」
「うん」

2人は光に包まれる。
(暖かい。シンジ君・・・・・)











トントントントントン

「ふあぁ〜」

包丁の心地よいリズムが聞こえる。時計を見ると、時刻は7時になっていた。
シンジは、すでに布団から出ていたが、ぬくもりはまだ残っていた。

「シンジ君のにおいがする。何かいいにおい。安心できるわ」

ミサトは考える。確かに、NERVに入ったのは使徒に復讐する為だった。だが、
(何か、体中から力が満ち溢れる感じがするわ。臨死体験で人生観変わるって、
 こういう事言うのかもね。・・・・『心が凝り固まってる』か。確かにそうかもしれないわね。
 昨日までは、ずっと復讐する事しか考えていなかったもの。
 嫌いだったお父さん。でも、好きになれたかもしれなかったお父さん。
 でも、もう話すこともできない。私を助けて死んでしまったから。
 だから、使徒が憎かった。もう1度でいいから、ちゃんと話したかった。
 そのチャンスさえ奪った使徒に、復讐したいと思った。だけど、
 シンジ君は『逢える』と言ったわ。だから私は・・・・)

「彼を信じたい。信じてついて行こう」

そう思った。大体、よくよく考えてみれば、確かにセカンドインパクトは使徒が起こした。
だが、その原因は?なぜあんな所に使徒がいたのか?なにより、
父は何の為にあの場所に私をつれて行ったのか?
NERVに入って、リツコに資料は見せてもらった。しかし、先日の初号機の事といい、
すべてを教えてもらえていたわけではないらしい。そういえば、碇司令を南極で見た気もする。
復讐にとらわれていて気が付かなかったが、全面的に信用するには、
NERVには秘密が多すぎる。まぁ、シンジも秘密が多そうだが。


「でも、私は彼を信じる。たとえNERVを敵に回しても。
 だから、待っててねお父さん。ぜったい、もう1度話をするんだから」

ミサトの顔には、晴れやかな笑みが浮かんでいた。

「ミサト早く起きろ!もう朝ご飯できたぞ!」
「は〜い!今行くわ!」







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