※この話は、第5話から8話終了までに起こった、
ある男の不幸な出来事についての話です。
「ふ、冬月」
「碇、そのくらいは自分で処理しろ。案外、再婚もいいかもしれんぞ?」
シャーマンジンジ・外伝
ある男の不幸
〜入院しました〜
あの後のことをゲンドウはよく覚えていない。
気が付くと自室で酒を飲んでいたのだ。
ゲンドウは思った。
(しかし冬月め。再婚だと?ふざけるな!
自分には関係の無い事だからと遊びおって!
ふっ、貴様にはいずれ復讐してやろう。
しかしユイ。お前の理想の本当にそんな事だったのか?
あんなに可愛がっていたシンジのことが分からないなど一体どうしてしまったのだ・・・・。
はっ!まさか10年の間に初号機に汚染されたのか!?
そうだとしたら早く救出せねば!
幸いシンジの協力は得られそうだし、何とか1ヶ月で準備を終わらせねば!
っと、準備もだがリツコ君もどうにかせねばなるまい。
いっそいなくなってもらうか?この世から。・・・・・・・駄目だ!
そんな事をしたらユイに現場を任せなければいけなくなってしまう。
ユイには家でゆっくりしておいて欲しいからな。
いずれはシンジと3人で暮らすのも良いかもしれん。
う〜ん、どうすれば・・・・・)
その日、結局ゲンドウは眠る事ができなかった。
1日目
(・・・・・・眠れなかった。しかし何か忘れている気がするが?)
ゲンドウは目に見えてやつれていた。
一晩中サルベージや愛人問題などをどうするか必死に考えていたのだ。
疲れ果てていた。
幸い、サングラスのおかげで目の下のクマは隠れてはいるが、
足取りはフラフラとしていて危ない。
「ねぇ。司令大丈夫なの?」
「赤木博士に連絡するか?」
等と周りからは聞こえてくる。
ここは食堂なのだ。
ゲンドウは、何時も朝食は高級な出前を取っているのだが、
今日は予約をしていなかった為に食堂に来ていたのだ。
職員にとっては災難である。
ゲンドウが居るなどただでさえ緊張するのに、
今のゲンドウは瘴気(しょうき)のようなものを出して、
しかもブツブツとなにやら呟きながらうどんを啜って(すすって)いる。
不気味な事この上ない。
1人、また1人と席を立つ職員達。皆殆ど食は進まずに朝食を残している。
そのうちに
「こんなところに居たのか碇」
「ん?冬月か」
「どうしたんだ?そんなにやつれて」
(貴様が再婚など話すからだろうが!)
等と思った事はおくびにも出さず、
「例の件の案をまとめていて寝ていないだけだ」
「例の・・・・・?おぉ、再婚の事か」
「な!」
冬月は、ニヤリと笑いながらわざと「再婚」を大声で言った。
周りに居た職員は驚き、次いで数人が急ぎ足で食堂から出て行く。
明日にはNERV中でうわさになっている事だろう。
「何を言うのだ冬月!誰が赤木君と再婚すると言った!」
「おや?私は赤木君とは言っていないが・・・・・・相手は赤木君だったのか!」
冬月は、また「赤木君」のところを大声で言う。
残っていた職員全員に聞こえていただろう。
また数人が食堂から走って出て行った。
(おのれ冬月!外堀から埋める気か!!)
(ふふっ。責任は取らんとなぁ碇。
心配せんでも、ユイ君は私が幸せにしてみせよう!)
同日・セントラルドグマ内・レイクローンプラント
天井にある巨大な脳の様な機械から直径1メートルくらいのガラスの管が伸びている。
その中にはLCLが溜まっていて、裸のレイが浮いていた。
「ダミー計画は順調に進んでいます。まず――――――――」
赤木リツコは報告を続ける。心なしか頬が紅いのは何故なのだろうか?
ゲンドウは、むっつりとした顔で報告を受ける。
足元は相変わらずフラフラしているが、視線はレイにくぎづけだ。
(ダミー計画など、ユイが復活すればどうでもいい。
逆に非難されるかもしれんし、止めてしまうのも手か。
しかし・・・・・レイ。立派に育ったな。
このまま後10年ほど成長させればユイと変わらない姿に!
ふふっ。眼福眼福)
「―――――――ということになります。ところで司令」
「・・・・・」
「碇司令!」
「ぬぉ!」
「話は聞きました」
「何の事だ?」
「私、シンジ君の母親になります!
大丈夫です。司令のように立派な大人に育てあげてみせますから!
じゃ、じゃあ私はこれで!」
そう言うと、リツコはさっさと部屋を出て行った。
残されたゲンドウはというと
「・・・・・・・」
見事に真っ白に燃え尽き、石化していた。
「・・・・・・碇司令?」
レイの声が、静かな部屋にむなしく響いた。
2日目
「いかりしれい」
シミュレーションルームへ行く途中、ゲンドウを見つけたレイは、
足早に近づいて声を掛けた。
だが
「・・・・・・・」
ゲンドウは虚空を見つめたまま通り過ぎていく。
レイは、無視されてしまった。
「・・・・しれい?」
3日目
「いかりしれい」
今日もレイはゲンドウに声を掛ける。
だが
「・・・・・・」
またもゲンドウはレイを無視した。
「どうして?」
レイは、ちょっぴり寂しさがこみ上げてきた。
「胸が苦しい。これが寂しいという感情?」
4日目
今日もゲンドウに無視されたレイは、対策を考える事にした。
(このままでは私はいらなくなる。それは嫌!
対策を考えなくてはいけないわ。
でもどうして司令はあんなふうになってしまったの?)
するとそこに都合よく2人の職員が歩いてくる。
2人はなにやら話をしていた。
「しかし、司令が再婚するとはなぁ」
「相手はあの赤木博士だもんな。ビックリしたぜ」
「そうだよなぁ。なんと言うか、勇気あるよな司令」
「怪しいクスリ使われたんじゃないか?」
「そうかも。それで既成事実を作られて」
「脅されて結婚、とか?」
「あり得るから恐いよな・・・・・」
それを聞いて、レイは閃いた。
(そう。赤木博士の所為だったのね。
婆さんは大人しくしていればいいのに。
でも安心したわ。婆さんなら直ぐに飽きられて捨てられるもの。
私の司令に戻るのもそんなに時間の問題じゃないわ。
でも、どうして赤来博士は結婚を考えたの?
本当にクスリなのかしら?・・・・・・十分ありえるわ)
2人の会話は続く。
「しかし、これでシンジ君も良かったよな」
「シンジ君?」
「ばか。サードチルドレンだよ」
「ああ!そういえばそんな名前だったな」
「赤木博士の事ははじめから「義母さん」て呼んでたみたいだし、
結婚にも賛成してるってさ。
やっぱ寂しかったのかな。あんな父親だけじゃねぇ?」
「殆ど会ってなかったんだろ?そりゃ寂しいさ」
「案外、今回の事もシンジ君が後押ししたんじゃないか?」
「それありえるかも。赤木博士とは仲がいいしな」
レイの中で、全ての謎が繋がった!
(そう。すべてサードの仕業だったのね。
私から司令を奪おうとするなんて。許さないわ!
どうにかしなければ・・・・・・・)
5日目
レイは通路の影に身を潜め、シンジの様子をうかがっていた。
(準備はバッチリ。後は実行あるのみ。
赤木博士の所からくすねてきたこのクスリを注射すれば、
まともな思考ができなくなる。
実験は見ていたもの。間違いないわ。
サードが使い物にならないなら、サードは用済み。
そうすれば、婆さんとの結婚も無くなって私の司令に戻ってくれる)
レイは暗く笑う。その顔はゲンドウの「ニヤリ」にそっくりだ。
何もそんなところを似なくていいのに・・・・・。
思考も、なにやら似ているような感じだ。
だが、はたしてうまく行くのだろうか?
レイの考えでは、
シンジが壊れる→シンジ用済み→
リツコとの結婚も必要なくなる→リツコも用済み→
私の下へ帰ってくる。
となっているのだが、実際は
シンジが壊れる→エヴァが動かない→
使徒が攻めてくる→戦えない→サードインパクト
となる可能性のほうが高いのだが・・・・・・。
(チャンス到来!)
シンジはリツコの研究室の前で、壁に背をもたれている。
ついに、廊下にいた職員達はみな居なくなった。
(赤木博士の研究室の前というのも好都合だわ。
ヘンな実験につき合わされて、サードがおかしくなったと司令に伝われば、
一気に婆さんも用済みにできる!)
レイは、シンジを目指して歩き出す。
あくまでも平静を装って。
(もう少し・・・・・今よ!さよならサード。貴方が悪いの)
レイは、隠していた注射器をシンジに刺そうと手を突き出した。
だが、その時研究室の扉が開いて
「待たせたなシンジ」
ゲンドウが出てきた!
(司令どうしてここに!?駄目、間に合わない!)
「ん?レイどうしたあ゛!」
注射器は、ゲンドウに刺さってしまった。
ゲンドウは泡を吹いて倒れた。
「司令!しっかりしてください!」
「父さん!」
「ゲンドウさんしっかり!」
そのままゲンドウは気を失った。
ゲンドウは一命を取り留めていた。
クスリが間違っていたのと、リツコの迅速な手当てがあった為だ。
レイが考えたように壊れる事は無かったが、
代わりに体が麻痺し動かなくなった。
治療の結果、麻痺は取れたものの、腸にポリープが見つかり緊急入院。
手術もあるので、3週間は病院生活を送る事になった。
リツコは仕事が忙しく、中々見舞いに行く事ができない。
レイは暇を見つけては見舞いに行った。
シンジは、学校帰りに見舞いに行った。
レイとシンジはよく時間帯が重なる事になり、
そしてゲンドウと3人で色々な話をした。
その結果、レイとシンジは仲良くなり、学校でも話したりするようになる。
ゲンドウが入院して1週間もする頃には、レイにも学校で友達ができていた。
そして、シャムシエル襲来
ゲンドウは病室のベッドで、モニターに映る使徒戦のようすを見ている。
横ではレイが椅子に座り、最近覚えた「リンゴの皮むき」を一生懸命にやっていた。
レイは柔らかく笑みを浮かべ、病室には戦闘中とは思えない暖かな雰囲気が満ちている。
ちなみに、レイがここに居る理由だが、
乗れるエヴァが無い為に本部に居ても無駄だと主張。
「司令を守る任務に就きます!」と言ってミサトの静止を聞かず病室に来たのだ。
「・・・・・切れた。はい、司令。リンゴむいたの」
「あ、あぁ。ありがとうレイ」
「・・・・・・ありがとう、感謝の言葉。言われると嬉しい」
ゲンドウはリンゴを食べながらモニターを見ていたのだが、
急に動かなくなった。なぜか大量に汗をかきはじめ、おまけに震えだした。
(何か忘れていると思ったが・・・・・・・。
どうしよう。レイのこと、ユイに何と言えばいいのだ!)
結局退院までにも考えがまとまらず、サルベージは遅れる事になった。
これが後に重大な影響を残す結果になるとは、この時誰も思っていなかった。