「……はぁ」


龍脈洞の奥深く、その麗しきお顔を哀愁に染めて今日もため息をつく女神様の姿があった。


「まさかジャックがあんなヤツだったとは……」


そして再びため息をつく。こんなに落ち込んでいるのは他でもない。
上司であるフレイに怒られ、評価値をまた下げてしまった所為だ。

今から80年ほど前、人間と妖精は己が存在を掛けて戦った。
金龍の器として妖精側についた少女と、その少女を救う為にと人間の側で戦った少年。
だが少女は銀龍の策略によって命を落とし、少年は彼女の敵を討たんと銀龍を倒した。
龍という秩序を失った世界は荒廃してしまったが、その結果妖精と人間は手を取りあって生きていくことを誓い合い、
ここに過去多くのものが望み、しかし決して実現される事がなかった平和な世界がおとずれた。

そして大戦から70年後、世界中を放浪し龍脈洞にたどり着いたジャックは、イセリアを倒し彼女に願った。


「リドリーを生き返らせて欲しい。逢いたい」


と。だがその願いは聞き入れられることは無かった。曰く、


「折角歪みが世界から消えたのに、新たな歪みを生み出す事は例え自分が滅ぶ事になったとしても聞き入れることはできない」


彼は落胆し、それならばと自らの消滅を願った。この世界にももう思い残す事は無いから。
実は、ジャックは死ねない体になっていたのだ。
銀龍を倒しても収まらなかった怒りに任せ、彼は消え逝く銀龍の心臓を喰った。
その結果、彼は70年経った今でも肉体はあの戦いの時のままである。
どんな酷い傷を負おうとも、消して死ぬ事は無かった。死にたくても死ねなかった。

イセリアはそれを聞いて、暫く黙って彼を見つめていたが、


「確かに、私ならば貴方を不死の呪縛から解放することも出来る。その願い、叶えましょう」


そして、イセリアがジャックを滅するために力を放たんとした時、止めに入る者がいた。


「ちょっっっっっっっっっっっっっっとまったぁ!!!!」


レナス・ヴァルキュリアその人(神)である。





†††††




「なぜ止めるのかしらレナス?」


レナスはイセリアの問いかけを無視してジャックに向き直る。


「お前はリドリー・ティンバーレイクに逢いたいのか?」

「……あぁ。カインに、もしかしてイセリアなら叶えられるかもって聞いてここまで来たんだけどな。
 駄目みたいだし。もう十分生きたから、そろそろ楽になりたいなって」

「だが消滅してしまっては何にもならないぞ。勿体無い事この上ない。やはり私とともに逝くべきだ。」

「いや、だからそれは嫌だって言ったろ?それにベルバラだっけ?そこに行ってもどうせリドリーには逢えないんだし」

「……ヴァルハラだ。というかリドリーに逢えないなんて誰が言った」

「へ?」


驚くジャック。
実は、レナスはリドリーにも目をつけていたのだった。そして彼女の死後、魂を回収。
現在はヴァルハラにてジャックを待ちながら目下花嫁修業中だという。


「よし逝こう。すぐに逝こう!」


それを聞いたジャックは即答し、レナスに導かれヴァルハラへと旅立って逝った。
レナスは、神をも倒せる戦士の魂を得たことで評価も鰻上りに違いない!とほくそ笑んでいた……のだったが。




†††††





ジャックがヴァルハラに来て10年。2人はいつも一緒だった。
戦闘でもその力を存分に発揮し、鬼神のごとく敵を蹴散らした。
と、そこまでは良かったのだが……。
ジャックとリドリー。2人はバカップルだった。

西に争いがあれば、2人で行って戦い……そしていちゃつきまわる。


「さて、気を引き締めていくぞジャック!」

「……リドリー。悪いけど戦闘には出ないでくれ」

「なぜだ!?」

「だって、もしリドリーが傷つくような事があったら俺はっ!」

「あぁっ、ジャック。それは私も同じだ。この戦闘でお前にもしもの事があったら私は生きて行けない」

「リドリー……」

「ジャック……」


評価値

戦闘に勝利           +60
いちゃつく            −20
味方への精神的被害    −20



東に戦闘があれば、2人で行って……野営キャンプで周りの被害を気にせずにハッスル!


「ジャック!そんなにしたらっ!」

「リドリー、リドリー!」

「も、もう駄目ぇっ!!!あぁっ…すごい……ジャック」

「はぁ、はぁ、はぁ。可愛いよリドリー」

「ジャック……」

「リドリー……」


評価値

戦闘に勝利           +60
いちゃつく            −20
励む                −30
味方への精神的被害    −40



どちらも戦闘には勝利しているが、敵に与えた被害と同じくらい味方がうける精神的被害は大きく、再起不能になる者も出る始末。
結局ヴァン神族とアース神族の戦いは長期化し、泥沼化していた。
上司のフレイにはなぜあんなやつらを送り込んだのか!と怒られ、
もちろん、ジャックを送った後も何人も送り込んで入るのだが、もともと面倒見の良いジャック。


「ここに慣れるまで手ぇ貸してやるからな!」


といらぬ世話を焼き、新人を連れまわす→2人に中てられる→再起不能、と悪循環を繰り返すばかり。レナスの評価も下降の一途を辿る。
一応戦闘では役に立っているので、ヴァルハラから追い出すわけにもいかず……。


「何か…何か手は無いものか。……はぁ」


こうして彼女は今日もため息をつくばかりなのだ。





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