「アスカ喜んでくれるかな?」


シンジはトウジの家で夜遅くまで考えていた。大事な計画を。
ヴァレンタインデーから早1ヶ月。ホワイトデーは明日に迫っていた。

 
 

 
 


 


エヴァ短編

ホワイトデーのお返しに・前編

 

 

 

 
 

「ふぁ〜〜・・・・」


惣流アスカラングレー嬢は朝、目覚ましの音で起きた。
ヴァレンタインから付き合い始めて、
朝アスカを起こすのはシンジの役目(というか同居を始めてからずっとだが)と決まっていたのだが、
今朝は違っていた。シンジは家にいないのだ。
はじめ怪訝に思った彼女だが、程なく理由を思い出し、幸せそうに頬を緩める。
今日は、待ちに待ったホワイトデー。付き合い始めてから最初のデートをする日だった。
ヒカリ・トウジとのダブルデートなのはちょっと不満があったが。
なぜ今までデートしなかったのか?ただ時間がなかったのだ。
付き合い始めての影響は色々あった。一番影響があったのはシンクロ率である。
付き合い始めてから、最近の落ち込みが嘘のように上昇を始めたのだ。
一時期、アスカのシンクロ率は30%まで落ち込んだ。
それが今や80%を平均としてたたき出すまでになっている。
シンジも訓練などにやる気を出すようになり、傍から見ても逞しく成長をしている。
その全てはアスカを自分の力で守るために。
だが、良い影響だけではなかったのだ。
レイである。
アスカとシンジが一緒にいて話していると、レイのシンクロ率が極端に下がるのだ。
原因は嫉妬によるものだったが、はじめのうちは分からなかった為、
特定するのに色々な実験をすることになった。
それに伴い、アスカとシンジが一緒にいられる時間は減った。
毎日、どちらかが早退してNERVへ向かう。レイも缶詰状態が続いた。
1週間で特定まで至ったものの、今度は対策を考えなければいけなかった。
レイは、取り敢えずシンジとアスカが2人きりでいると考えるとシンクロ率が下がる。
使徒はいつ襲ってくるか分からない。そこでいざという時のために、
アスカとシンジは極力2人きりにしないということが決まった。
登校は3人一緒。下校はバラバラ。休日は3人で行動する。
つまり、家の中くらいしか2人きりにはなれなかったのだ。
そうなると今度はアスカにストレスが溜まってきた。
我慢しきれなくなったアスカは、ミサトを通じてNERVに申請した。
せめてホワイトデーだけは恋人として行動させて欲しいと。
そうして、やっと念願だったデートが実現したのだった。


「シンジは鈴原の家だったわよねぇ・・・・・・。
 自分から言い出したこととはいえ、起きて直ぐシンジの顔を見れないのは寂しいな」


提案したのはアスカだ。より恋人気分を味わうために、
当日に待ち合わせをすることにしたのだ。
昨日からシンジは、ダブルデートの相方のトウジの家に泊まっている。
ヒカリもアスカの部屋にお泊りだ。


「あ、アスカ起きたのね。シャワー浴びる?」

「おはよヒカリ。そうね、お肌を綺麗に磨いておかないと。何があるか分からないし」

「何かって・・・・アスカまさか!?」

「くっついたりした時に汗臭いと嫌じゃない」

「そ、そう。私てっきり・・・・」

「はぁ。何変なこと考えてるのよヒカリ。「不潔」って言うわりには想像力逞しいんだから」

「ごめんアスカ」

「じゃシャワー浴びてくるか」

「うん」


待ち合わせは10時。今の時刻は7時。
「今までで最高に綺麗にならなくては!」と気合を入れるアスカだった。
 ちなみに、アスカもヒカリもシンジたちと付き合っていることは学校ではまだ秘密にしていた。
 ・・・・・まわりにはバレバレだったが。

 
 

 
 


 
 

一方、こちらはトウジの家。
家は違えど役割はかわらず。シンジは朝食を作っていた。
第3使徒の折、怪我をし入院していたトウジの妹のサツキは、
退院はしたのだが今朝早くから親に連れられて定期健診のためにNERVの病院へ行っている。
そこでシンジが朝食を作ることになったのだ。


「センセもマメやのぅ。ええ奥さんになれるで」

「トウジも暇なら少し手伝って欲しいんだけどね」

「あほ。料理なんぞ男のするもんやない!」

「でも洞木さん、前に料理の出来る男の人ってカッコいいって言ってたよ?」

「ほ、ほんまか?」

「うん。偶の休みに男の料理を作ってくれるような人って素敵だって。
 トウジも、何か練習した方がいいんじゃないの?」

「あ、あほ!何でわしがイインチョのために料理を練習せなあかんねや」

「結婚するならその方がいいと思うけど?」

「け、結婚なんぞまだ・・・・」

「僕はアスカと結婚するつもりだけど」

「その年でもうそんなことを・・・・・。センセにはついていけんわ」

 
 

 
 


 
 

 
 

「アスカたち遅いなぁ」

「せやなぁ」


約束の10時は、早30分前に過ぎていた。
だが、2人が来る気配は無い。


「女の子は時間がかかるからしょうが無いとは思うけど」

「せやかてもうわしらここに来て1時間は経っとるんやで?
 早めに来たとはいえこれ以上待つのはちとキツイで」

「NERVだと2時間くらいは平気で待たされるけど?
 それにしてもトウジ。本当にそれでよかったの?」

「ん?あぁ、ジャージか?わいのポリシーやからな」

「洞木さん、かわいそうに」

「なに言うんや。ちゃんとお洒落したんやで」

「・・・・・ちなみにどのあたりが?」

「よう見てみぃ。新品やしここに、ほれ、青いラインが入っとるやんか」

「それがお洒落?」

「そうや。大体センセこそなんや。そのシャツ、しわしわやないか」

「これはこういうデザインなんだよ」


そんな話をして時間をつぶしていたていたのだが、
それからさらに30分。やっと2人は現れた。


「お待たせシンジー!」

「ごめんね鈴原。ちょっと着替えに手間取って」

「「・・・・・・」」

「ちょっとシンジ?」

「どうしたの鈴原?」

「「可愛い・・・」」


顔を真っ赤にしながら言ったシンジたちに


「「あ、ありがとう」」


こちらも顔を真っ赤にしながら答えるアスカたちだった。
しばらくそうして見詰め合っていたのだが、アスカがそれにしても、と言った。


「あんたこんな時もジャージなの?」

「当たり前や!わいのポリシーやからな」


トウジは胸を張って言った。


「はぁ、ヒカリは頑張ってコーディネイトしたのに・・・・・・かわいそう」

「あんなぁ、夫婦して同じこと言わんでくれ。さすがにへこむで」

「い、いいのよアスカ。カッコいいわよ鈴原」

「そうか?無理せんでもえぇて」

「無理なんかしてないわよ。特にその青のラインが素敵ね」

「ホンマか!?見てみぃセンセ。分かるもんには分かるんや。
 イインチョの為にお洒落してよかったで」


 
 

 
 


 
 

第3新東京市には遊園地は無い。
実は以前はあったのだが、使徒戦で完膚なきまでに破壊されて営業停止になっていた。
シンジたちはその少ない脳みそで必死に考え、
今日のデートは映画から始まり食事、その後二手に分かれてウィンドウショッピングをすることにした。
ヒカリとトウジにとってはこれも初めての経験だったが、
アスカとシンジにとっては付き合う前の何時もの休日パターンだった。
その時はシンジの役目は「荷物持ち」だったのだが。
ただ、久しぶりだったし、何より今は付き合っているということで、2人の気分は盛り上がっていた。
今日の予定はシンジが全て考えたという事もアスカには新鮮だった。


「映画何を見るの?」

「えっと、これなんだけど」


シンジは、持っていたパンフレットをアスカに見せた。
アスカはしばらく読んでいたが、


「へぇ、なかなか面白そうじゃない。あんたにしては上出来」

「ありがとうアスカ。喜んでくれて。
 トウジが恋愛物苦手でちょっともめたんだけど、押し切ってよかったよ」

「まぁジャージだもんねぇ」


そう言ってトウジを見るアスカ。


「しょうがないやろ?恋愛物は見てるとムズムズしてくるんや」

「じゃあ鈴原は何を見るつもりだったの?」


そのヒカリの問いかけにトウジは


「わしか?アレや」


そう言ってある映画のポスターを指差す。


「「お、お財布モンスター・・・・」」

「ハァ?何よそれ?シンジ教えて」

「お財布モンスターっていうのはね―――――」


お財布モンスター。クレジットカードサイズのモンスターカードに入っているモンスターと一緒に、
サイモンマスター(お財布モンスターマスター)を目指し戦っていくというゲームを元にしたアニメだ。
カードに入っているモンスターは、それぞれ一定料金を払う事で戦闘に参加してくれる。
また、フリーモンスターも、モンスターの入っていないカードを呈示する事で、
交渉する事が出来る。うまく契約すると、モンスターはカードに入り、
新たな仲間として戦ってくれるようになる。
モンスターにはレベルがあり、レベルが上がると料金も高くなる。
主人公が一度に払える金額は決まっていて、それを超えると命令をきかなくなる。
各町にある管理事務所で事務長を倒す事で名刺をもらい、金額の上限を上げることが出来る。
アニメは、主人公マサユキが、相棒のモンスター「電柱(デンチュウ)」と共に、
サイモンマスターを目指して仲間と共に戦っていくというもので、
セカンドインパクト以前から人気の長寿アニメだ。


「―――――ってアニメなんだよアスカ」

「何でそんなの見なきゃいけないのよ」

「妹が好きなんや」

「だからって・・・・ヒカリも大変ね」

「いいのよアスカ。そこがいいんだら」

「・・・・・どこがよ」


頬を染めるヒカリに、アスカは呆れて言った。

 
 

 
 


 
 

映画を見終え、昼食も済んだ。後はショッピングを残すのみなのだが・・・・・。


「アスカ、どこか行きたい所ある?」

「無いわよ別に」

「な、無いの!?」

「実はヒカリとこのデートの為の服を買いに来た時、
 このあたりのお店はほとんど見てまわったのよ。改めて見たいってところはないかな」

「そ、そう・・・・・・・あ!あそこなんかは?」


そう言ってシンジが指差した方を見ると


「なになに・・・・・あなたのオリジナルの香水ができます?
 いいじゃない。行って見ましょう?ヒカリたちもそれでいい?」

「でも、ああいったお店って高いんじゃないの?」

「でもほら、看板に『5千円〜御作りします』って書いてあるから大丈夫だと思うよ」

「そうやでヒカリ。遠慮せんでえぇ。今日の為に貯めといたさかい」

「じゃあ・・・・・・そうね、行きましょう」


4人は店に入っていった。


「いらっしゃいませ。今日はどういった物をお探しですか?」

「あの、オリジナルの香水が作れるって看板に」

「はい。ではこちらへ」


店内にはいろいろな香水が置いてある。
値段を見ると・・・・・・・2万円!?トウジは来た事をちょっと後悔した。


「オリジナルはいくつかの香水をブレンドして作るんです。
 こちらにいろいろありますので、選んでみてください。
 ただ、好きな香りを併せたからといって必ずしもいい香りになるとは限りませんので、
 こちらの試験棒で必ず香りを試してから購入をするようにしてくださいね」

「分かりました」


ここからは2組に別れて、それぞれの彼女にあった香水を作ることになった。


「取り敢えず、コレとコレ、それにコレを併せてみましょ」

「そうだね」


アスカは、自分のお気に入りのシャンプーなどの香りのするものを混ぜてみたのだが・・・・・。


「何て言うか・・・・・・トイレの芳香剤?」

「そんなにハッキリ言わなくてもいいじゃない。でも、ホントそんな感じね」

「店員さんも、好きな香りだからっていい香りになるとは限らないって言ってたけど、本当だったね」

「あ〜あ、自身はあったんだけどな」

「しょうがないよ。またいろいろ試してみよう?」

「そうね。折角だし、シンジが気に入ってくれるやつを作りたいもの」

「アスカ・・・・・」

「シンジ・・・・・」

「またやっとるであいつら」


トウジは、シンジたちを見てゲンナリした。


「あないに所構わずキスしとるのに、本人達はまだ内緒のつもりなんやからなぁ」

「そ、そうね(私もいつか鈴原と・・・・・)」


トウジに同意しつつ、想像に頬を赤らめるヒカリだった。

 
 

 
 


 
 

あーでも無いこうでも無いと、悩みに悩んで時刻は既に夕方に。
だがそのかいあって、香水の出来はそれぞれ納得のいくものになった。


「すいません、この組み合わせでお願いします」

「はい。これだと・・・・・・・1万4千円になりますね」

「カードでお願いします」

「畏まりましたって、これNERVのカードじゃないですか!?」

「は、はい。そうですけど」

「NERVの方だったんですね。すいません、半額に割引しておきます」

「ええ!?いいですよ!」

「いえ、NERVの赤木さんにはお世話になりましたから」

「そうなんですか?」

「えぇ、アドバイスを色々と。ここだけの話、オリジナル香水の材料の仕入れ元は、
NERVなんですよ。赤木さんが開発したんだそうです」


それを聞いたシンジの顔がちょっと引きつる。
赤木印のものには何かと苦い思い出があるのだ。
だが、仮にも市販しているものだし、多分大丈夫だろうと思いそのまま購入をすることにした。
店を出ると、もう夕刻という事もあり、ヒカリが夕飯の買い物をしなければいけないと言い出した。
Wデートはここで終了する事になった。


「いい!ちゃんとヒカリを家まで送るのよ!」

「分かっとるわい。行くでヒカリ」

「待って鈴原。それじゃあねアスカ、碇君」

「バイバイヒカリ」

「じゃあね洞木さん、トウジ」


2組のカップルは、それぞれの帰路についた。

 
 

 
 


 
 

前編終わり




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