「とりあえず、理由を聞かせてもらえないかしら?」







シャーマンシンジ
第9話





「突貫した件のことかな?」

「そうよ。私は撤退を命じたはずだけど?」

「撤退する時間はないと判断したから」

「あの時は貴方だけが乗っていたんじゃないのよ?
 あの子達に何かあったらどうするつもり?」

「そういえばリエさんと相田君は?」

「大丈夫、以上は無いそうよ。
 ただ、東城さんは起きて直ぐちょっと混乱してたけど。
 別段問題は無いし、直ぐに開放。今頃は家に帰ってるでしょ。
 相田君に至ってはピンピンしてたわ」

「そうか」

「彼は今回色々やってくれたから、ちょっと尋問しないとね。いまは独房にいるわ」

「そういえば、あの2人何であんなところにいたんだ?」

「相田君がシェルターから抜け出そうとしてたところを東城さんが見つけて、
 止めようと追いかけて一緒にあそこまで来ちゃったらしいのよ」

「またか。教室での事といい、トラブルばかり起こして」

「その件も報告を受けてるわ。災難だったわねぇシンジ君」

「まぁね。情報を教えなかったから嫌がらせのつもりだったんだろうけど」

「でもチルドレンへの暴行に関与してるんだから、
 取調べは徹底的にやらせてもらうわ」

「たのむよ。あんな事が今後無いようにね」

「任せといて!私が直々にやるから」

「お願いするよ。体に異常が無いか診てもらいたいから、医務室にいってもいいかな?」

「そうね。じゃ、もう行っていいわ」

「分かった」


シンジはそう言って立ち去った。
シンジを詰問うけるはずだったが、うまい具合に話を逸らし、
見事処罰を受けずにすんだのだった。
というか、こんなに簡単にやられるなよミサト

 
 

 
 


 
 

「もう3日、か」

「どうしたの鈴原?」

「イインチョか。ケンスケが学校に来んようになってからや。
 ・・・・・・転校生も休んどるけど」

「心配?」

「当たり前や。ケンスケは友達やからな」

「でもシェルター抜け出したんでしょ?
 責任を取らされて今頃はNERVで色々実験に・・・・」

「不吉な事言うなやイインチョ!」

「あのねぇ、そんなに気になるなら綾波さんにでも聞けばいいじゃない」


ヒカリにそう言われて、トウジはレイのいる方を見る。
最近友達も出来たレイは、数人の女の子達に囲まれて談笑している。


「・・・・・あの中に入れっちゅうんか?ワシには無理や」

「それなら私が聞いてこようか?」

「イインチョに迷惑掛けるわけにはいかん。頃合見てワシが聞きにいくわ」


と言ったトウジだったが、その後もレイが独りになることは無かった。
休み時間のたびに友達が来るし、昼休みもリエ達と食事をしていた。
放課後、やっと独りになったと思ったのだが、
NERVから黒服さん達が迎えに来て早々に連れ去ってしまった。
結局、トウジはケンスケの行方を聞くことは出来なかった。

 
 

 
 


 
 

「ただいま〜」


仕事を終え、ミサトは家に帰ってきた。


「お帰りミサト」

「クワッ」


シンジはこの3日学校をサボってクルハとジオフロントの探索をしていた。


「ん〜、いい匂い」

「今日はいいブリが手に入ったから、ブリ大根にしたよ」

「いつも思うけど美味しそうねぇ」

「うまく出来なかったら折檻だったからね。
自然と腕が上がったよ。竜さんも教えてくれたし」

「クワワッ!」

「ペンペンの分はちゃんと刺身にしてあるから。そんなに慌てるなって」

「クワッ!」


そんなこんなで、今日も楽しい夕食の時間は過ぎていく。


「ところでシンジ君」

「何だよミサト?」


今日の後片付けはミサトの当番だ。
ミサトは、家事全般駄目だったのだが、
シンジが丁寧に指導したお陰で何とか一通り出来るようになったのだった。
シンジは、クルハと共に「ためして目がテン」を見ていたのだが、
ミサトの声に振り向く。


「空き部屋にいるアレだけど、いつまでここに置いておくの?」

「アレ?あぁ、ごめん。すっかり忘れてた」

「忘れてたって・・・・・・可哀想に」

「仕方ないだろ?僕だって人間なんだから、ド忘れする事だってあるさ」

「それにしたってねぇ」


ミサトは、哀れみを込めた目で物置として使っている空き部屋の方を見る。


「でも、元々彼が悪いんだから御相子(おあいこ)って事でいいじゃないか」


空き部屋の奥、隅の誇りが溜まっている所にソレは居た。
縄で後ろ手に縛られ、何かの御符を顔に貼り付けられているのは相田ケンスケその人であった。
事の起こりは3日前に遡る。

 
 

 
 


 
 

「彼は全然反省してないみたいだね」

「そうね」


シンジとリツコは、マジックミラーの向こうに居るケンスケを見て言った。
ケンスケは今、保安部の取調べを受けている。
シンジは、ミサトに体の調子を見てもらうからと嘘をついてリツコの研究室へ行き、
ケンスケの取調べに同行できるように頼んだのだ。
鏡の向こうでは、保安部と言い争っているケンスケの姿が見える。


「――――――て来てなんだよ!」

「何度も聞くが、君はなぜシェルターを抜け出した?」

「君に僕を拘束する権限があるのか?僕は相田諜報部長の息子だぞ。
 このことがしれたら君はどうなるだろうねぇ?」

「さぁな。もう一度聞くが、なぜシェルターを抜け出した?」

「だから、話す事なんて無いって言ってるだろ!
 早く僕を解放しろよ。今ならパパに黙っててやるからさ」

「言っとくが、理由を話すまでここから出ることは出来ないぞ。
 ・・・・・・それと、持っていた物は全て没収させてもらった」

「何だって!?」

「証拠品だからな。それにあのビデオカメラには、
 NERVの機密が沢山映ってたしな。大体―――――――」


保安部の斉藤貴(さいとうたかし)話だと、かれこれ1時間はこんな状態だという。
シンジはため息をつくと、隣に居るリツコに話しかけた。


「相田君の事は僕に任せてよ」

「あら、何か対策があるの?」

「実は、彼の所為で学校で殴られたんだよ。
 そのお返しも兼ねて、ちょっと試したい事があるんだ」

「何をするのかしら?」

「ちょっとした拷問みたいなのをね。ところで、さっき彼の話してた相田部長って?」

「あぁ、彼なら遠くへ行く事になったわ」

「遠く?」

「今回の責任を取らないとね。大丈夫、貴重な人体実っ・・・・・・げふんげふん。
 何でもないわ。兎に角、相田部長に関しては手を打っておいたから」

「・・・・・へぇ」


シンジは、「世の中知らない事が良い事もある」とそれ以上考えるのをやめた。
それから3日間、ケンスケはシンジたちの家の物置に放置されていたのである。

 
 

 
 


 
 

「そろそろいいかな」


そう言ってシンジはケンスケに貼り付けてあった御符をはがす。
この3日同じ姿勢で拘束されていたケンスケは、ぐったりしたまま動かない。
どうやら気を失っているようだ。


「とろこで彼に何をしたのかしら?」

「ん?あぁ、時間の感覚の無い暗闇の中に閉じ込めてあげたんだ。
 あの御符を貼っている間は何も無い空間にいるような感覚を味わうんだよ」

「何も無いってどういうこと?」

「言った通りだよ。光も感じないし匂い、音、味も感じない。自分の声すら聞こえない。
 考える事は出来るんだけどね。でもそれしか出来ないから普通の人は壊れる」

「っちょ、拙いんじゃないの!?」

「大丈夫だよ。ある程度苦しんだらストッパーが掛かるように細工したから」

「・・・・・ほんとに?」

「心配ないって。いずれミサトにも試すものだし安全じゃないと使わないよ」


聞いたミサとの顔が青くなる。


「な、なぜに?」

「これも修行になるの。一度死を体験するようなものだし、自分を見つめるのにも最適なんだよ」


この時シンジは、ゲンドウのような微笑をニヤリと浮かべた。
 
 

 
 


 
 

「――――相田ケンスケによる被害は以上です」

「これは・・・・・酷いものだな」


司令室では、入院中のゲンドウに代わって執務の全てを取り仕切っている
コウゾウとリツコが話しをしていた。
今報告に上がっているのは、今回ケンスケがシェルターを抜け出したことによる被害の報告だ。
エヴァの修理費用などを合わせると3兆円以上も掛かる。


「設備や警備の不備が分かっただけが唯一の救いか」

「そうですね。しかしそのための費用は別途かかりますので・・・・・」

「・・・・・まったく」

「彼による被害はそれだけではありません」

「何だ、他にもあるのかね?」

「相田諜報部長の自宅を捜索したのですが、このようなものが」


コウゾウはリツコの差し出したものを見て顔をしかめる。


「盗撮かね。いい趣味とはいえんな」

「まったくですわ」


それは写真だった。ただの写真ではない。
更衣室で着替えている女生徒たちのものだ。
水泳の授業なのだろうか?下着すら身に着けていないといったかなり際どい物もある。


「他にもビデオ撮影しているものもありました。盗聴もしていたようです。
 幸いレイに関してはこういった様な物はありませんでしたが」

「だが碇にしれたら大事だな」

「そうですわね。他にも、父親のパソコンから情報を抜き出して、
 自分のサイトで公開もしていたようです。解析を行ったところ、戦自からもアクセスが」

「どのくらい情報が漏れていたのかね?」

「大した事はありませんでしたが・・・・・・チルドレンが中学生だという事は」

「知られてしまったか」

「はい」

「まぁこの街に潜入すれば直ぐにでも分かる情報だがな」

「今後戦自から何かしらのアプローチが考えられます」

「そういえば、非公式だがあそこには少年兵がいたな」

「そうです。チルドレンに接触をはかる可能性もあります」

「中学生として入ってこられたら厄介だな」

「えぇ。下手に圧力を掛けるわけにもいきませんし」

「やれやれ。胃が痛くなってくるな」


それでしたら、とリツコ。


「いい薬がありますわ」

「い、いや。遠慮するよ」

「・・・・・・そうですか」


コウゾウには、リツコが舌打ちしたように聞こえた。

 
 

 
 


 
 

 
 

翌朝、ケンスケを諜報部に引渡しゆっくりと朝食を楽しんでいたシンジたちに来客があった。


「は〜いどなたですか〜って、誰?」

「は、はじめまして!ワシは鈴原トウジちゅうもんです!
 碇シンジ君はい、いらっしゃいまず、ますでしょうか?」

「ちょっとまっててねん。シンちゃ〜ん、お客さんよ!」


ミサトは寝間着のままだった。トウジには刺激が強かったのだろう。真っ赤になっている。


(て、転校生・・・・・・こんな別嬪さんと同棲しとるなんて羨ましいで)


「あれ?鈴原君じゃないか」

「へ?」


ぼ〜っとミサトに見とれていたトウジだが、シンジの声でハッとして


「て、転校生!」

「なに?」

「ワシを殴れ!」

「は?・・・・・あぁ、前の事ならもういいよ」

「それじゃワシの気が済まんのや!遠慮せんで殴ってくれ!」

「じゃあ・・・・・」


シンジは軽くトウジの頬を殴った。


「なんや、本気で殴らんかい!」

「危険だよ」

「ワシがえぇ言うとるんじゃ。本気でこんかい!」

「分かったよ。どうなっても知らないからね?」

「おう!」

「さて、いくよ?」


そのときミサトには、確かに メキョッ! という音が聞こえた。
シンジのパンチを顔面に受けたトウジは、そのまま倒れて床とキスをした。


「だから言ったのに」

 
 

 
 


 
 

 
 

「知らない天井や」


トウジは病室で目を覚ました。
時刻は既に夕刻になり、室内はオレンジ色に染まっている。
しばらく天井を見上げていたのだが、ふと気が付いて隣を見ると


「ケンスケ?」


隣にはケンスケが寝ていた。


「こんなところにおったんかい。しかし・・・・・変わり果てたのぅ」


ケンスケは見事にやつれていた。
シンジの拷問は余程辛かったのだろう。
しかも、丸坊主だった。
反省を促す為にミサトがやったのだ。


「まぁ、それだけの事をしたんやからしょうがないで。しかし、何や頭がスースーしよるのう?」


そう思ったトウジは頭に手をやる。
そして彼の顔が驚愕に歪む!


「何でワシまで・・・・・・・」


彼も坊主頭になっていた。
こちらは、ケンスケと共に写真の販売をしていたと聞いたリツコが、
ケンスケに対する怒りの捌け口として八つ当たり的にやったものだった。


カナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナカナ


病室に響く蜩(ヒグラシ)の声が、余計に虚しさを醸(かも)し出していた。






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