「目標を映像で確認。領海内に進入しました」

「総員、第1種戦闘用意!」









シャーマンシンジ
第8話





「それにしても、碇司令の入院中に第4の使徒襲来か。随分早かったわね」

「前回は15年のブランクがありましたからね。今回は1月経ってないですし。
 せめて後1月余裕があれば、第3新東京市の迎撃システムもフル稼働できたんですが」

「こっちの都合はお構いなし、か。女性に嫌われるタイプね」


ミサトは緊張を抑えるため、日向と軽口を叩いていた。


「ところで用意は良いかしら?シンジ君」


ミサトは、エヴァに搭乗して瞑想しているシンジに問いかけた。


「あぁ。ただ、反応が遅い。前回のような動きは期待しないでほしい」

「どういうことかしら?」

「ちょっと邪魔な者が居るんだよ」

「?」

「葛城1尉、その件について報告は受けている。いま君の考えるべきことではないよ」

「了解しました副指令」


ミサトには何の事だか分からなかったが、冬月には想像が付いた。


(・・・・ユイ君のことか。しかし親を邪魔者とはな。相当嫌われているようだ。
 コアは操縦のサポートになるのではなかったのか?)


「シンジ君。反応はどのくらい鈍くなっているのかしら?」

「そうだな・・・・・・大体、考えてから反応するまでに0.2秒ほど」

「そんなに!?」


ミサトが驚いたのも無理は無い。高々0.2秒だが、戦闘においてそれは致命的である。
一瞬の判断が生死を左右するのだ。シンジの先読みに期待するしかなかった。


「それに動きも鈍いようね。これもその報告とやらに関係あるのかしらね」


リツコが言った。


「あれ?あんたには報告行ってないの?
 私はともかくとしても、あんたはE計画責任者でしょ?」

「どうも副指令権限以上のパスじゃないと閲覧できないようになってるみたいなのよ。
 何故かMAGIも積極的にプロテクトを掛けてるし。私は内容を知らないの」

「じゃあどうしてシンジ君は知ってるのよ」

「さぁ?この間の面会の時に話したんじゃないの?
 あの2人にしか話してないとすれば、なんに関する事かは想像できるけど」

「私にも教えてくれない?」

「駄目よ。SSSクラスの機密事項だもの。貴方には資格は無いのよ」

「あんたはどうなのよ」

「私は立場上よ。知らなければエヴァは創れなかったわ。
 っと、これ以上は話せないわ。後は直接司令にでも聞いて頂戴」

「それこそ無理じゃない」

「とにかく、その話はこれまで。それより気になる事がるのよ。
 戦闘中は変化があるかと思ったんだけど、やっぱりシンクロ率は0なのね」

「そうねぇ。あっ!シンクロ率が上がれば動きも良くなるんじゃなかったっけ?」

「普通はね。でもシンジ君だし」

「確かに。シンジ君だしねぇ」


2人そろってため息を吐く。


「あの〜、そろそろ出撃しなくてもいいんですか?」


使徒が領海内に侵入してから早10分。未だに出撃しないエヴァに対し、
各所から抗議が殺到している。その情報を受けたマヤがミサトに聞いた。


「え!?まだしてなかったっけ?じゃエヴァンゲリオン初号機はっ「その前に」ん?何シンジ君?」

「武器は無いの?今回は近接戦闘はできるだけしたくは無いんだけど」

「そうね・・・・バレットライフルがあるわ。それを使って」

「分かったよ」

「では改めまして。エヴァンゲリオン初号機、発進!」


やっとこさシンジは出撃した。



 
 


 

同時刻・某シェルター内



「あ〜あ、まただよ」

「何がや?」


シェルターでは、多くの人が不安な表情で肩を寄せ合っている。そんな中、
ビデオカメラに内蔵されているテレビを見ていたケンスケは、さも残念そうに言った。
トウジは、疑問に思い問いかける。


「ほら、見てみろよ。報道規制ってやつさ。
こんなビッグイベントなのに僕ら民間人には何も見せてくれないんだ。」

「・・・・・お前ホンマ好きやな、こういうの」

「この上でドンパチやってんだよなぁ。うぅ、1度でいいから見てみたい!
 ・・・・・・なぁ、トウジ」

「アホぬかせ。今外出たら死んでまうやないか!」


その言葉を聞き、トウジたちの周りでケンスケの監視をしていた生徒達が一斉に身構える。
気付いたトウジに緊張が走る。彼らの目は「腕の1本や2本折ってでも止める」と語っていた。
だが「戦闘を如何にして見るか」、今その事しか頭にないケンスケは気付かない。


「離れてれば大丈夫だって!
 それに、トウジ。お前には転校生を見守る義務があるんじゃないか?」

「な、なんでや?」

「こないだの戦闘だって、結局あいつが俺達を守ったんだぜ?
 それを良く考えもしないで殴ったりして」

「う"っ」

「いわゆる「借り」ってもんがあるんじゃないのか?」

「そりゃそうやけど・・・・・って違う!「借り」があるからこそ邪魔できんのや!
 やっぱ出て行くわけにはいかん。お前も大人しく座っとれ!」

「ちぇっ!分かったよ」


ケンスケはそう言って座り込んだ。周りもそれを見て警戒を解いたが、
トウジだけは疑問に思っていた。


(ケンスケのやつホンマに諦めたんやろか?なんやまだ手を考えとる気がしてならん)



 


 


「敵ATフィールドを中和しつつ、バレットライフルの一斉射撃。いいわね?」

「了解しました!義母さん」


シンジは身を低く保ち、バレットライフルを構える。
第4使徒シャムシエルは、ゆっくりとした速度で第3新東京市に迫ってきている。
バレットライフルの有効射程距離到達まで、あと





5



4



3



2



1



0



「シンジ君、いま!」

「行くよシャムシエル!」


シンジはライフルを撃つ。言われたとおりに。
だが、シャムシエルにダメージは見られない。
それでも撃ち込まれる弾丸は、弾着の煙を上げ視界を塞いでいく。



「シンジ君打ち方止め!使徒が見えない!」

「了解」


シンジは射撃を止め、取り敢えず間合いを取った。
しかし、


「なっ!」


煙幕となった弾着煙の中から、光の鞭状のものが飛び出してきた。


「ちぃっ!」


シンジは、ライフルを盾にして攻撃を防ぐ。
ライフルは真っ二つに切断されてしまった。


「鞭、か・・・・・厄介だな。ミサト」

「何かしら?」

「ライフルは効果ないみたいだ。あの鞭じゃ接近は無理そうだし。
 代わりにプログナイフを出してくれないか?」

「ナイフを?」

「接近はしない。投げるのさ」

「分かったわ。リツコ、ナイフの予備はどのくらいあるの?」

「零号機のも合わせれば、現在初号機が持っているのと合わせて5本ほど。
 でもねぇ・・・・ねぇシンジ君。本当に接近は無理なの?」

「エヴァの腹にでかい穴が開くか、腕が片方なくなるくらいの損失を出してもいいのなら。
 あの速度の鞭を避けるのは、今の初号機には無理だしね」

「そ、そう。はぁ、ナイフは近くのビルに出しておくから受け取って」

「分かりました義母さん」


あからさまに落ち込むリツコを見たミサトは、


「どうしたのリツコ?ナイフ投げに問題があるの?」

「そうね。シンジ君が100%命中させてくれればいいんだけど、
 今のエヴァの状態を考えると、シンジ君の腕が良くても精々60%あればいい方なのよ」

「ふんふん。で?」

「外すとするでしょ?シミュレートしたことが無いから、
 ナイフはどこに飛んでいくか分からないし、何よりあのナイフ高いのよ」

「は?」

「だから、価格がすごいの。1本400億はするわ」

「な、何でそんなに高いのよ!」

「仕方がないでしょ?あれの開発はドイツ支部が行ったんだもの。
 こっちみたいにチミチミ言う人がいないから、どんどん予算を使って造ったの。
 おかげで単価があんなになっちゃって」

「それで、か。ちなみにエヴァのお腹に穴が開いたりしたら、修理には幾らぐらい掛かるの?」

「程度にもよるけど・・・・・ざっと100兆円くらいかしら。
 腕も一緒に失うとそれくらい掛かるわね。
 しかも、生体部品の再生にも時間が掛かるし、1ヶ月以上使い物にならなくなるわ」

「そう。どちらにせよ不経済な話ね」

「そうね。まだナイフのほうが安いけれど」



発令所がそんな会話をしていた頃、シェルターでは


「どこに行くんや?ケンスケ」

「ちょっとトイレだよ」

「・・・・・心配やしワシも行く」

「何だよ心配って」

「外に出るかもしれんからの。ちゅう訳でイインチョ、わしら便所や」

「はいはい。鈴原、くれぐれも頼んだわよ」

「分かっとるわ」



そして



「ケンスケぇ、まだか?」

「あのなぁトウジ。そんな所にいられちゃ出る物も出ないよ」

「せやかてお前、見張っとらな何するか分からんやろ」

「はぁ。トイレの出口は1つしかないんだぜ?入り口で待っててくれればいいだろ」

「それもそうやな。ほな、急げやケンスケ。ようキバり」

「分かってるよ。・・・・・・・・・行ったか。
 すまんトウジ。どうしても見たいんだよ。この上のダクトを使えば・・・・」

 


 


 

 

戦闘が始まって30分。何とか鞭をかわしながらナイフを投下するも、
1本目はシャムシエルの鞭に起動を逸らされて明後日の方向へと飛んでいった。


「あの鞭はホントに厄介ね」

「そうね。ナイフもあまり余裕ないし、早く決めてしまわないと。損失も高くなるし」

「ミサト!」

「何かしら?」

「街の迎撃システムを集中させてくれ!隙を作れば何とか当てる!」

「分かったわ。マヤちゃん!多少被害を出してもいいから、ありったけの火力を集中して」

「了解!・・・・・・・準備できました!」

「日向君!」

「了解しました」


配備されていたミサイルの殆どがシャムシエルに発射される。
ATフィールドに阻まれるも、半数は命中。
その時、今まで地面に対し平行姿勢で飛行していたシャムシエルが起き上がった!
その姿はまるで

「・・・・イカ?」

「イカねぇ」

「イカって言うか、アレにも似てるかな」

「マコト!変な事言うなよ」

「不潔です日向さん!」

「貴方達戦闘中よ!ナニの話をしないの!」


リツコは注意をしたが、日向の言葉はシンジの耳にも届いていた。
エヴァの動きが止まり、折角のチャンスを逃してしまう。


「シンジ君!?どうしたって言うの!?」

「反り返って・・・・・・」


シャムシエルがナニかに見えた時、シンジは昔の記憶がフラッシュバックした。


『なぁシンジ』

『何ですか?ハオさん』

『小っちぇな』


僕は小っちゃくない!


その時


「エヴァ初号機、シンクロ率上昇!」

「何ですって?いきなりどうして!」

「10・・・20・・・・・40・・・・60%まで上昇!」


初号機はナイフを構え、シャムシエルに突進していった。


「しまった!」


だが逆に鞭にとらわれ、近くの山へと投げ飛ばされてしまう。


ぐぅ!


『シンジ!』

『クルハか?』

『さっきの隙に一瞬コントロールを奪われました。
 でも大丈夫。再封印は完了しましたから』

『そうか。すまないクルハ。ちょっと思い出しちゃって』

『何をですか?』

『いや、だからナニを・・・・』

『ん?』

『とにかく気にしなくていいから!』

『はぁ・・・・』


「シンジ君大丈夫?」


ミサトから声がかかった。


「大丈夫。もう問題ないよ・・・・・て、あれ?」


エントリープラグのモニターの端に、何か見える。
サブウィンドを開いてみると、そこにいたのはケンスケとリエだった。


「シンジ君のクラスメート?何でこんなところに・・・・」


理由は、少し前に遡る。

 

 

 

「っと、やっと出れた。ここからなら見つからないだろ」

ケンスケはダクトを伝い、トウジに気付かれないように移動。
トイレから離れた通路に出た。

「相田、こんな所で何をしてるの?」

「げっ!東城かよ」

「あんたまさか・・・・馬鹿な事考えてないで、はやく戻るのよ」

「すまん東城!見逃してくれ」

「ちょっと待ちなさいよ!」


ケンスケは出口へ向かって走り出した。
リエは捕まえようとするが、ケンスケは以外に足が速く、捕まえる事ができない。
そうしているうちに、とうとう出口まで来てしまった。
ケンスケは、少しも躊躇する事も無く扉を開けて外にでる。


「もう!シンジ君になんて言えばいいのよ!」


リエは、ケンスケを追って外へと飛び出した。


「見ろよ東城!アレがエヴァだぜ!転校生が戦ってるんだ」

「あれが・・・・・」


目の前の光景に、ここにいる理由も忘れ立ちすくむリエ。
ケンスケは、そんなリエを尻目に撮影を続けている。
だがしばらくして

「あれ?捕まっちゃったよ・・・・・ってこっちに来るぅ!」

「へ? き、きゃあああ!

初号機が飛んできた。



 

 

 

2人は腰を抜かして座り込んでいる。動けそうにも無かった。
そこにシャムシエルの鞭が襲う。
シンジは、手で受け止める以外選択肢が無かった。


「どうして反撃しないの!?」

「俺達がここにいるから動けないんだ!」


リエはそれを聞き、悔しさでいっぱいになる。
約束を守るどころか、戦闘を妨害してしまった。
ケンスケは少しばかり後悔していた。
だが、同時に戦闘を間近で見られる事に興奮していた。
そのうちに


「あ、アンビリカルケーブル切断されました!」

「何ですってぇ!」

「エヴァ初号機、活動限界まで後1分です!」


シンジは、ミサトに指示を仰ぐ。


「ミサト!どうすればいい!?」

「マヤちゃん!シンクロ率はどうなの?」

「現在、0%に戻っています!」


ミサトは考える。


(あの時はシンクロ率が上昇してあんな事になった。0なら大丈夫か。
 シンジ君も落ち着いてみるみたいだし)


「シンジ君!その2人をエントリープラグに乗せなさい!」

「なっ!葛城1尉、あの中は最重要機密よ!許可できません」

「私が許可します。赤木3佐」

「越権行為よ!」

「全ての責任は私が負います。シンジ君やって!」

「分かったよ」


シンジは、エントリープラグを半分だけイジェクトし、
スピーカーを使いケンスケ達に呼びかける。


『そこの2人早く乗って!』


その呼びかけにケンスケは興奮して


「やった!エヴァに乗れるんだ!」


いそいそと初号機へ乗り込んでいく。
だが、リエは動けない。
シンジはここにいる自分をどう思っただろうか?
軽蔑されたのではないのか?
そう思うと足が動かない。
いっそ、ここで死んでしまえば・・・・・


『リエさんも早く!君には死んで欲しくない!』

「っ!はい!」


シンジのその言葉を聞いて、リエはようやく安心し初号機へ乗り込んだ。


 

「きゃ!」

「うわっ!水がぐもつがえあjろふぁ・・・・・って、息ができる?」


初号機内では、シンジが苦悶の表情で戦っていた。
理恵はその姿に胸が苦しくなり、
ケンスケはそんな事どこ吹く風と、しきりにプラグ内のことを記憶に留めようとしている。


「シンジ君時間がないわ!撤退を」

「おい転校生、撤退しろってさ」

「分かってるよ!でも・・・・・・」


残り時間は30秒を切っている。とてもじゃないが撤退はできないだろう。
いま、このエヴァに残されている手は


「ミサト、義母さんごめん!エヴァ初号機突貫します!」

「「なんですって!」」


シンジは、手に持っている鞭を引いてシャムシエルを引き寄せる。
そして近くに迫ったところを蹴飛ばし、体勢を崩させる。
そしてナイフを装備し突貫した


ぐぅううっ!!


無事コアにナイフを突き立てたが、
最後の抵抗とばかりにシャムシエルは初号機の腹部に鞭を突き刺す。
シンジ、それに同乗している2人は、腹部に激しい痛みを感じる。
その痛みでケンスケは失神し、リエはこんな条件でシンジは戦っているのかと
思い、邪魔をした自分に悔しさがこみ上げる。


「エヴァ初号機、活動限界まで10秒!
 7・・・6・・・5・・・4・・・3・・・」

「パターンブルー消失。使徒殲滅を確認!」

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

「あの、シンジ君・・・・・」

「はぁ、はぁ・・・・大丈夫?リエさん」

「私は大丈夫だけど」

「そう。良かった」


シンジは微笑んだ。それはとても柔らかいもので・・・。
リエはようやく緊張が解け、気を失った






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