最近よく見る夢がある。
姉上の夢だ。
いつも同じ展開。
うまく出来ずにお仕置きされる。
私は逃げるが、追いつかれてしまって・・・・・。
だが、そこで助けが現れる。
彼は私を優しく抱きしめ、姉上から守ってくれる。
そして最後は


「素子ちゃん・・・・・」

「あっ」


彼の唇が段々と近づいてくる。





20p



15p



10p



5p



 

「だめ、うら・・・・し・・・・・・ま」


そこで目が覚める。






ラブひな
〜幸せを求めて〜
第4話






うわぁあああああ!


素子は飛び起きた。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ。またあの夢か」


最近素子は夢を見る。
景太郎とキスをするというものだ。


「なぜあんな夢ばかり見るのだ・・・・・くしゅんっ」


初めて会った時は、景太郎の事はそれなりに出来た人だと思ったのだが、
最近のドジっぷりを見て評価は落ちてきている。
彼がひなた荘に来てから既に5回は風呂を覗かれているし、
ぶつかって胸を揉まれる等それ以上にあった。
他の住民達も色々と被害を受けている。


(確かに、しのぶの件では少しは見直したが・・・・・。
 うぅ、それにしてもあんな夢を見るなど。
 私は一体どうしたというのだ!?
 だいたい、浦島は結婚しているというのに。しかもおそらく相手は姉上だろうし。
 私には不倫願望があったのか?そんな不潔な!)


素子ちゃ〜ん、起きてる?学校に遅れるよ


素子は時間のたつのも忘れて真剣に悩んでいた。
なんといっても、あの夢を見たのは今日で連続5日。
原因は何なのか?対策は?考えは尽きない。


素子ちゃん?まだ寝てるのかな。ごめん、部屋に入るよ


素子はまだ悩んでいる。
部屋に誰か入ってきたことに気付かないくらいに。


「素子ちゃん」

ぅひゃうっ!う、浦島!?
何の用だ。勝手に入ってくるな!」

「勝手にって、ちゃんと断わったよ?でも返事が無いし心配になって入ったんだよ。
 それより、早く朝食食べないと学校遅れるよ?」

「へ?す、すまん。直ぐに行くから」

「うん」

「・・・・・何をしている。
 着替えるから早く出て欲しいのだが?」

「あっ!ごめん、じゃ食堂でみんな待ってるから」

「ふん」

 
 

 
 


 
 

私立大仲(おおなか)女子高等学校。


「ごきげんよう、素子さん」

「おはようございます真田先生」

「「「おはようござます素子様!」」」

「ちょ、お前達!」

「あらあら。素子さんも大変ねぇ」

「分かっているなら助けてください!」


爽やか(?)な挨拶が、澄み切った青空にこだまする。
乙女達が、今日も天使のような無垢な笑顔で
モデルのように背の高い素子に群がってくる。
彼女達を包む雰囲気は、ピンク色に満ちている。
素子様の声は、一片でも聞き逃さないように。
学園生活で、素子様が困らないように全力でサポートすること。
それが彼女達のたしなみ。
もちろん、遅刻して朝の挨拶を逃す者などいるはずもない。
私立大仲女子高等学校・素子親衛隊(剣道部生が中心)。
それは、ちょっと行き過ぎちゃったかもしれない乙女達の集団。



3間目の国語の時間

素子は、学校でも悩んでいた。
もちろん、夢の事で。
授業そっちのけで考えていたのだが、
そのうちに舟を漕ぎはじめた。どうやら眠くなったようだ。

眠ると夢を見る→眠らなければ見ない→ギリギリまで睡眠時間を削ろう

と考えた素子は、最近殆ど寝ていない。
ついに耐え切れなくなり、授業中に寝るという、
普段の素子には考えられない行動をすることになったのだ。
そこまでしているのに、夢はバッチリと見てしまっているのだが。
素子は、遂に机に突っ伏してしまった。


「ん・・・・・すぅ、すぅ、すぅ」


「あら?素子さんが寝てしまうなんて珍しいわねぇ」


真田美由紀は、少し驚きながらも何故か嬉しい気持ちになった。
自分の授業で寝られるのは困るのだが、
このクラスの担任でもある美由紀は、前々から思っていた事があったのだ。
それはつまり、素子があまり馴染んでいないのではないか?ということである。
たしかに、友達もいるし部活もやっている。
親衛隊なども出来ているし、クラスにもそのメンバーがいるくらいなのだが、
本人はいつも凛としており、ある一定以上は心に近づけさせないような
壁を張っていたふうに見えていた。
相談には乗るが自分の事は殆ど話さないし、友達と遊びに行く事もない。
その素子が、授業中に幸せな顔をして眠っているのだ。


「なんだか最近疲れているみたいだったし、少し眠らせてあげましょうか」

「ん〜・・・・うらしま・・・・」

「ふふっ。かわいい顔しちゃって。どんな夢をみているのかしら」

「うらしま?」


素子の呟きは、後ろの席に座っている幸代にも聞こえた。


(うらしま・・・・・浦島?
 まさか素子様は、あの時の男の夢をみていらっしゃるのでは?)

(ウラシマ・・・・・そういえば管理人が変わったって話をしていたわね。
 素子さんたら、もしかしてその人のことを・・・・・・。
 幸せそうな顔。ウラシマさんに感謝しなくちゃねぇ。
 こんなに素子さんを可愛くしちゃうんだもの)


素子の顔は、段々と赤くなっていく。
寝言も艶をおびてきた。


あっ・・・・だめ・・・・・うら・・・・ま・・・キスは・・・・

キスですって!?

ぎゃう!


突然後ろの幸代が上げた大声に、素子は飛び起きた。
そして周りを見渡した後、自分が寝ていた事と今が授業中であることを思い出し、


「す、すみません真田先生」

「いいのよ素子さん。それよりウラシマさんって恋人かしら?」

「ち、違います!誰があんな軟弱者など・・・・・くしゅんっ」

「でも」


美由紀は素子の耳に口を近づけて


「キスって言ってたわよ?」

「なっ!」

「ウラシマさんっていったら、新しい管理人さんが浦島さんで男だったわよねぇ。
 素子さんにも春が来たのね。先生応援してるから頑張って!」

「あぅ〜」


素子は、もう何もいえなくなってしまった。
授業中に寝てしまい、しかもあの夢を見た事。
そしてそれが担任や、多分周りにいたクラスメート達にも知られてしまった事がショックで、
何も考えられなくなっていたのだった。


ちなみに幸代はというと


「や、やはり素子様は・・・・・」


ショックを受け固まっていた。

 
 

 
 


 
 

それから時間も流れ、下校中

今日はどうやら部活に身も入らなかったので、珍しく早めに上がらせてもらった。
一人でいるとまた考え込んでしまうので、
時間も早い事もありスゥを迎えに行く事にした。
そして、スゥと帰っていると買い物中のなると会う。
一緒に帰ることになり、他愛も無い話をした。


「それにしても素子ちゃん」


なるが言う


「最近丸くなったわよねぇ」

「そうですか?」

「せやなー。最近は良く遊んでくれるし」

「そうよ。・・・・・そういえば景太郎が来てからよね」

「そ、そんな事はありません!」

「そうかなぁ。ねぇ素子ちゃん。景太郎をどう思う?」

「わ、私はそんな、あんな軟弱物のことなど」

「ウチは好きやでケータロー」

「スゥ、何を言うか!浦島は既婚者だぞ?そのような感情を・・・・くしゅんっ」

「落ち着いてよ素子ちゃん。スゥちゃんのは恋愛感情とは違うわよ。
 ねぇ?スゥちゃん。景太郎のどんなところが好きなの?」

「ケータローは優しいし、いい匂いするし、スベスベしてて気持ちいし、
 なんや兄さまみたいで好きなんや」

「ほらね?素子ちゃん違うでしょ。
 でもそんなふうに思うなんて、素子ちゃん景太郎のこと」

「わ、私は、その・・・・・」


そんな話をしていたのだが


いい感じの3人組発見!行こうぜ

ホントだ

なぁ、止めておいた方がいいって



誰かが近づいてくる気配が。


(あの声はもしや?いや、浦島がそんな事をするはずなど)


俺真ん中の黒髪が好みかな

マジかよ灰谷。背が高すぎないか?ちなみに俺は左ね

あれどう見ても中学生じゃないか。犯罪だぞ白井

あれ?あの3人てもしかして



素子は段々とイライラしてきた。
景太郎にはだいぶ慣れてきた。
だが、見知らぬ男に声をかけられるなど不快なだけだ。


「ねぇ君たち、お茶しない?」


灰谷は、また古い言い方で声をかけた。
その時


「さっきから五月蝿いぞ」

「へ?」


素子が竹刀を一閃。灰谷と白井は吹き飛ばされて尻餅をついた。


「あ〜あ、だから止めておけって言ったのに」

「・・・・・浦島、お前もか?くしゅんっ」

「えぇ!?俺は違うよ」

「結婚していて、しかも受験生の身でありながらナンパとはいい身分だな」

「だから違うって!俺は止めようとしたんだよ」

「どうだか」

「ケータローも女好きやなー」

「だいたい、お前のせいで私は・・・・斬空閃!

ぶがらぅべん!


景太郎は夕焼けの空に飛んでいった。

 
 

 
 


 
 

次の日

今日は日曜で部活も休みだ。
素子は、心のモヤモヤを振り払う為、早朝から物干し台で素振りをしていた。


「――――――2957!・・・2958!・・・2959!――――」


3000も近づくうち、段々と無心に成れてきた。
実に浴びる朝日も気持ちよく、素子は久しぶりに清々しい気持ちになっていた。


「―――――2998!・・・2999!・・・3000!・・・・・くしゅんっ」


実は今朝もあの夢を見て早く起きたのだが、
3000回も素振りをするとさすがにちょっと疲れてしまった。
これならば今日は夢も見ずゆっくり眠れそうだと素子は思ったのだが、


「素子ちゃんご飯の時間だよ」

「はうっ!う、浦島」

「ご飯できたよ」

「わ、分かった」

諸悪の根源が登場。
爽やかな気持ちが一気に吹き飛んでしまった。
素子は、内面の動揺を悟られないようにと、
あくまで自然に景太郎の横を通り過ぎようとしたのだが、


「おはよーモトコー!」

「あっ」

「危ない素子ちゃん!」

突然飛び出してきたスゥに驚き足を滑らせてしまった。
ちょうど横にいた景太郎は、素子を優しく抱きとめる。
スゥが言っていた「景太郎のいい匂い」が素子にも感じられる。
すごく安心できるような、そんな匂いが。
一方、景太郎も素子の匂いを感じていた。
起きてから2時間以上竹刀を振り続けていた為に、強く汗の匂いがするのだが、
思春期の女子の甘い匂いと、どことなく鶴子に似た匂いもまざっていて、景太郎はドキドキした。
2人ともしばらく固まっていたのだが、
状況に気付いた素子は、夢の事を思い出し、
また自分が汗臭いことを感じて恥ずかしさのあまり


紅蓮拳!

なぜー!?

「よく飛ぶなーケータロー」

 
 

 
 


 
 

そして朝食

素子はどこか変だった。
顔は赤いし、どこか怒っているようにも見える。
醤油を取ろうとして景太郎と手が触れれば、
景太郎を睨みつけて醤油を奪う。
何かブツブツ言いながら醤油をかけていたのだが、
かけ過ぎだとみつね注意されると、何故かまた景太郎を睨む。
味わうことなく素早く食事を終え、席を立とうとしたときに、


「素子ちゃん、ご飯粒が頬についてるよ」


と景太郎が教えると、


「し、失礼する!」


と言いながら、景太郎の顔にポットを投げつける。
食堂から出て行く足取りもフラフラしていて、

柱にぶつかる→よろけてバケツに足を突っ込む→結果歩けずにこける

と訳の分からない事になっていた。


「・・・・・あんた、素子ちゃんに何かしたんじゃないでしょうね?」

「し、知らないよ!」

「でも顔が真っ赤でした」

「それに取り乱しとるっちゅーか、舞い上がっとるっちゅーか」

 
 

 
 

 
 

その後、素子は素振りで汗臭くなっていた事を思い出し、風呂に入っていた。
何故か、スゥも一緒だ。


(なんなんだこれは?私はどうしてしまったんだ・・・・
 浦島の事を考えるたびにあんなにドキドキするなんて。
 頭もボーっとするし、胸も苦しい)

なーモトコー大丈夫かー?


(これは・・・・やはり私はあいつのことを好いているのか?
 だかあいつは既婚なんだぞ!?しかも相手は姉上だし)


モトコー。返事してーなー

「くしゅんっ」

何や風邪かー?

「認めんぞ・・・・・」

うぅ、無視せんといてー

「私は認めん。お前が初恋の相手などと・・・・・・・浦島景太郎!


そう言って湯船から立ち上がったのだが、


「誰か呼んだかい?」

「あっ」

「ご、ごめん素子ちゃん」

「うぅ〜」


景太郎は素子の生まれたままの姿を見てしまった。それはもうバッチリと。

 
 

 
 


 
 

ひなた荘の裏山には色々な場所がある。
何と滝まであるのだ。近くには庵(いおり)もある。
今、ひなた荘の一同はそこへと来ている。


「なぜこんな事に?」

「ふっふっふ。覚悟はいいか浦島景太郎?くしゅんっ」


素子は、竹刀片手に言う。
景太郎も竹刀を構えており、素子から見てもなかなか様になっているように見える。


「浦島景太郎。貴様に決闘を申し込む!」

「はぁ?」

「貴様が勝ったら、風呂を覗いた事は不問にしよう。何ならこれからも覗いて構わん。
 だが私が勝ったら、貴様には我が神鳴流に伝わる地獄の特訓を受けてもらおう」

「じ、地獄の特訓・・・・ってもしかしてあれ?」

「知っているようだな」

「知ってるも何も、「ウチと付き合うんなら、景はんにも少しくらい
 強うなってもらわなあきまへんなぁ」って鶴ちゃんに言われて無理やり」

「そうか。ならば私も遠慮はいらんな。本気で行かせてもらう・・・・くしゅんっ」

「えぇ!?そんなぁ」

「いいな。私に負けたら、あの修行をもう一度受けさせるからな」

「あんなのもう2度とごめんだ!みんなも見てないで助けてよ!」


と少しはなれたところでレジャーシートを敷いて座っているみんなに呼びかけるが


「まぁええやないか景太郎!だいたい、あぁなった素子を誰が止めれるかっちゅうねん」

「先輩ファイトです!」

「素子ちゃ〜ん!ちゃんと手加減してあげてねぇ!
 そんなんでも一応受験生なんだから!」

「モトコー頑張りやー!」


2人の決闘を肴に宴会を始めている。
誰も止める気は無いらしい。


「行くぞ浦島。斬岩剣!

「うわっ、ちょっと」


景太郎は慌てて飛びのいた。
後ろにあった岩は、真っ二つになっている。

「これでどうだ・・・・斬空閃!

ぷろっ!


素子の放った一撃は、見事景太郎に直撃。
だが、吹き飛ばされた景太郎は、何事も無かったかのように立ち上がる。


「危ないなぁ」

「くっ、効いていないだと?」

「ならばこれで!百花繚乱!

がりゅん!


今度も景太郎に直撃。だが、またしても景太郎は起き上がる。


「なぜ効かない!?・・・・くしゅんっ」

「あれ?素子ちゃんもしかして」

「よ、寄るな!このぉ拡散斬光閃!


素子は、自棄になって奥義を連発し始める。
景太郎は焦っていた。
見る限り、素子は何時もの調子ではない。一刻も早く休ませたいと思った。
神鳴流の奥義は、気を使用するものが多い。
こんなに無茶苦茶に放っていては、体調を崩している場合、下手をすると命の危険も・・・・


「仕方ない。ごめん素子ちゃん」


景太郎は竹刀を投げ捨てると、素子の懐に潜り込む。


「神鳴流、浮雲・旋一閃(弱)!」

「かはっ」


手加減をしたので威力はかなり軽減されていたのだが、
それでも素子は気を失ってしまった。

 
 

 
 


 
 

「ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ」

「やっぱり風邪をひいていたんだね」

「38.6℃。こんな大風邪ひいてよくまぁ・・・・・せやから様子が変やったんやな」

「無理しちゃ駄目だよ素子ちゃん」

「すみませんキツネさん、浦島」

「でもどうして風邪なんか?素子ちゃんて自己管理できてると思ってたんだけど」

「先週からですなる先輩。キツネさんが競馬で当たったからと言って宴会をしましたよね」

「そういえばそうやったなぁ」

「その時に―――――」

 
 

 
 


 
 

先週の宴会時のこと

「なぁ景太郎」

「なんれすかぁキツネはん」


酔っ払ったキツネと景太郎がなにやら話している。
と言うか、2人とも未成年のはずだが・・・・
景太郎は泥酔に近い状態で、みつねは折角だから色々情報を聞き出そうとしていたのだ。
ちなみに、なるは「勉強があるから」と早々と引き上げていた。
自分だけ避難したらしい。無論、しわ寄せは景太郎に。


「奥さんとの初キスは、どんなシチュエーションやったんや?」

「それはれすねぇ〜、彼女のいえれす」

「なるほどなぁ」

「ほれでれすねぇ――――――」


酔っ払い同士の話は続く。
所変わって素子とスゥ、しのぶの3人は、
酔っ払いから非難して宴会を楽しんでいたのだが、
景太郎たちの話しているのを聞いて


「そう言えば素子さん、キスってしたことありますか?」

「な、何を言うんだしのぶ!そんな事あるわけ・・・・」

「そうですかぁ」

「なぜそんな事を聞く?」

「だって素子さん綺麗だから。経験あるんじゃないかと思って」

「なぁなぁモトコー」

「何だスゥ?」

「経験ないんなら、ウチとしてみんかー?」

「や、やめろスゥ!」

そう言って素子に迫るスゥ。
素子は堪らず逃げ出した。だが、幾ら逃げても追ってくる。
そのうち、酔っ払いたちの下へと来てしまった。
景太郎の横を通り過ぎようとした時、不意に腕をつかまれて、
素子は景太郎に抱きしめられてしまった。


「らめらよスゥちゃん!(駄目だよスゥちゃん!)
 むいやりチュウしらら!(無理やりチュウしたら!)」

「う、浦島・・・・」

「えぇー?ケータローええやん」

「らめ!ほんいんがいいっへいはらいいへお(駄目!本人が良いって言ったらいいけど)」

「ちぇー」


スゥは行ってしまう。


「もうらいじょううらからね、もろこひゃん(もう大丈夫だからね、素子ちゃん)」

「あっ」


景太郎は、素子の頭を優しく撫でる。
とても気持ちが良い。
素子は、いつの間にか寝てしまった。景太郎も酔いつぶれて寝てしまう。
みつねは「やれやれ」と呟くと、


「ほら素子、景太郎。そのまま寝ると風邪ひくで」

「ん〜」

「ふぁ〜い」


2人は、寝ぼけながらも部屋へと戻って行った。

 
 

 
 


 
 

「その後布団も敷かずに寝てしまって。起きたら風邪気味に」

「ごめん素子ちゃん。俺そんなことしてたんだ」

「良いんだ浦島。酔いの席の事だし気にしてない。
 それより、薬を取ってくれないか?そこの引き出しに入っている」

「これかな?って、これ原料は何?市販の薬じゃないよね」

「これは我が家の秘伝の薬だ。ガマとイモリの黒焼きを煎じてある」

「ガマにイモリだって!?」

「どうしたのよ景太郎?」


あまりの景太郎の驚き様に、不審に思ったなるは問いかけた。


「いやね、素子ちゃん、これ風邪薬として飲んでたの?」

「そうだが・・・・・間違っていたか?」

「あのね、ガマの黒焼きは惚れ薬。
 イモリの黒焼きは性力剤の効能があるんだよ」

何だと!?ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ」

「大声出しちゃ駄目だよ!
 でもこんなの毎日飲んでたら、それはもうすごい事になると思うけど。
 何か思い当たる節はある?」

「・・・・・ある」


(そうか。あの夢も浦島を見てドキドキするのも、全てこの薬が原因だったのか)


「良かった」

「素子ちゃん?」

「何でもない」

「とにかく、これはもう飲んじゃ駄目だよ。
 今日はゆっくり寝て、明日直って無ければ一緒に病院に行くこと。分かった?」

「ん・・・・」

「それじゃお休み」

「お休み素子」

「お休み素子ちゃん」


結局、薬を飲むのをやめたその日のうちに素子の熱は見る見る下がり、
風邪も次の日には治っていた。
だが、この事件は素子の学校で少しの波紋を残す事になる。

 
 

 
 


 
 

ちょっと後日談

「モトコーこれ何やと思う?」

「こ、これは!」


みつねが持っていたのは1枚の写真。
問題なのは、素子が景太郎に抱きしめられて幸せそうに眠る姿が写っている事で


「宴会の時にな。あんまり素子が可愛かったからつい」

「ついじゃないですよ!直ぐに処分しないと」

「でもなぁ、素子。よう見てみぃ。
 あんたがひなた荘に来てから随分経つけど、
 こないな顔してるとこなんて見た事無かったで。少なくともうちはな」

「・・・・・」

「素子は変わったで。前は、なんや取っ付きにくかったし」

「そう、ですか?」

「そうや。今はなんか、凛としとるけど柔らしゅうなった。
 この写真も記念にとっといたらどうや?」

「何の記念ですか・・・・・」

「まぁええやないか。ほな、うちはもう行くで」


みつねは去っていった。
素子はため息をつきながら


「それにしても・・・・・・幸せそうだな。写真の私は」




注意!
この話の「ガマの黒焼き」と「イモリの黒焼き」のくだりの知識は、
ぴえろさまのサイト「赤松健作品総合研究所」の「ラブひな」の「豆知識」を参考にしており、
ぴえろさまには許可を得て書いてあります。

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