俺は、この世界で幸せになるため(シンジに殺されないため)に行動を開始した。








ある男の悲劇と対策
第三話






 ゲルヒンに着くと、ナオコが迎えに出ていた。やっぱりケバイおばさんだな。
「あら、ゲンドウちゃん。何かあったの?少し雰囲気がかわったけど」
「問題ない、赤木君。それより調べて欲しいことがあるのだが」
「赤木君なんて他人行儀な。もうユイさんもいないんだし、ナオコって呼んでよ。
それで調べて欲しいことって何?エヴァやMAGI、貴方が連れてきた
レイちゃんの相手もしなきゃいけないし、私結構忙しいんだけど?」
「ユイの解読した裏死海文書について、再調査をして欲しい」
「今更どうして?」
「あれの解読にかかわっていたのはユイだけだ。
 私はそれを信じてここまでやってきたに過ぎないが、
 これからのことを考えるとより慎重になるに越したことはない。
 私の方でも調べてみるが、何か見落としがあるような気がしてならない。
 間違っても、使徒にサードインパクトを起こさせるわけにはいかないからな。
 タイムスケジュールや使徒の能力、その他なんでもいい。
 気づいたことがあたら教えて欲しい」
「わかったけど・・・まぁいいわ。やってあげる」
「たのむ」
「でもただじゃないわよ?専門外のことだし、見返りはもらうわ」
「見返り?」
「そうねぇ、じゃあ今晩から毎日私の部屋に来てね。タップリ見返りもらうから」
そう言って彼女は去っていった。後には呆然と固まった俺だけが残された。
「も、問題ない。趣味じゃないけど・・・。どうせならリツコの相手をしたいなぁ」







何だかんだで2週間。朝も夜も体を酷使したかいあって、裏死海文書解読に問題があることが判明した。
「これだと、補完計画の成功率は1割にも満たないことになるな」
「えぇ、間違いないわ。心の壊れた人間、しかも相手は14歳ですもの。
 一つになることよりはみんなの死を望む確立のほうが高いわね。
 自分がこんな不幸にあってるのはお前たちのせいだ。殺してやるってね。
 まぁ間違いなく他人を拒絶するわね」
「補完計画の中止は決定的か。後はゼーレをいかにして説得するかだが・・・」
「それにはまだまだ証拠が足りないわね」

 そんな話し合いをしていると、急に呼び出しがかかった。相手は・・・ゼーレ!
「結構無茶なこともしたし、もしかしてばれちゃったとか?」
「だが急に私を解任したり、殺したりはしないはずだ。私以外に勤まるとは思えん。」
「まぁ、何にせよ無視するわけにはいかないわね」









「急な呼び出し、すまなかったね碇君」
「いえ。それで今回の用件は?」
「それが我々にも分からんのだよ。議長からの緊急な呼び出しがあってね」
どうやら誰も呼び出しの理由を知らないらしい。キールが来るまで待つしかないか。





「諸君、急な呼び出しすまなかったな」
「確かに急ですな。それより議長、何かあったのですかな?」
「それについてだが・・・碇」
「はい」
「最近、君が独自に裏死海文書について調査をしていることは知っている」
「どういうことかな碇君。我々に刃向かう気かね?」
「落ち着きたまえ諸君。別に碇を非難しているわけではない。
 実は私の方でも再調査をしたのだ。それで分かったことがあったのだが・・・。
 碇、まずは君の意見を聞かせてもらえないかね?」

 やはりばれていたのか?しかし、下手なことを言ってしまうとまずい。
うそが通じるとも思えないし。このままだと最悪、殺されることになるかもしれないし。
証拠は少ないが、やってみるしかないか。
「実は、裏死海文書の解読にミスがあったことが判明しました」
「何だと?!どういうことだ!」
「碇君、今更怖くなったのかね?そんな馬鹿げたことを。この場での偽証は死に値するよ?」

 ってまずい、ミスったか?このままだと殺される!
そんなの嫌だ。誰か僕を助けてよ!
「落ち着きたまえ諸君!・・・碇、やはりそうだったか」

やはり?キールのやついったいどういうことだ?
「私の方も同じような結果が出た。碇ユイの解読にはミスがあったのだ」
「議長、それはどういうことですかな?」
「考えてもみたまえ諸君。依り代になるのは14歳の子供だ。
 しかも散々裏切られて心も壊れている。
 我々がいかに崇高な意志を持っていようとも、
 計画の核たる人間が他人を拒絶していてはどうしようもない。
 精神の接触を図ってもおそらく近づくことすらできないだろう」
「その通りです。赤木博士とも検討した結果、成功率は1割にも満たないことが判明しました」
「なんだと!では我々が今までやってきたことは無駄だというのか?
 しかしセカンドインパクトは起こってしまった。もはや後戻りは・・・」

 やっぱそうだよな。ここまできた以上、爺様方も後には引けないだろう。
「諸君、目的を履き違えるな。我々の目的は何だったか?
 争いをなくし人類を高みへ導くことだろう?失敗すると分かっていて事を起こすなど、
 愚の骨頂だ。指導者たる我々がそうではいかんだろう。
 実は失敗すると分かった直後、さすがに私も心が折れかけた。
 しかし、そのとき私を癒してくれる者が現れた。曾孫が生まれたのだ。
 その子を見せられた時に私は思った。
 この子を幸せにしたい、と。この子が安心して生きていける世界を作ってやりたいと。
 諸君にも守りたい者がいるだろう?」
 あの爺にそんなことがあったのか。でもこれで補完計画は中止だな。
他の連中もどうやら納得しているみたいだし。
安心して俺補完計画を発動できる。シンジ君との仲直りも急がないといけないな。

「今日はご苦労だった、諸君。これよりゼーレは本来の姿にもどる。
 愛すべき者達の未来のために!」


「「「「「「「「「「「愛すべきもの達の未来のために!!!!」」」」」」」」」」」


「では解散しよう。ところで碇。君には少し話がある。今後について少しな」
他のメンバーに解散を告げた後、キールが話しかけてきた。




「それで、話とは?」
皆が退席した後もなかなか話さないキールに痺れを切らして、俺は言った。
「お前は碇ゲンドウではないな?」
「は?」
いきなり何言ってるんだこの爺は?
「私はサードインパクトのさなかユイにあった」
「そこでユイと約束したのだ。今度は必ずシンジを幸せにすると。
 だが、気がついてみると私はキールになっていた。
 気を取り直して行動を起こそうとしたのだが、
 君は当時の私とはまったく違う行動をとっていた。
 まるでサードインパクト後の世界を知っているかのように。もう一度聞く。君は誰だ?」

これは初めてみるパターンだな。ゲンドウさんまで逆行かよ。
しかもキールになってるなんて。まぁ正直に話すほかは無いか。
「俺は神野耀貴といいます。2005年、宮崎で大学生をしていました。
 俺の世界では、セカンドインパクトは起きませんでした。
 俺は、いわゆるパラレルワールドの住人です」
「では、なぜサードインパクトの事をしっているのだ?」
「俺が中学生くらいのころです。新世紀エヴァンゲリオンというアニメを見ました」
「アニメ、だと?」
「そうです」
俺は、自分の知っている事、覚えていることをすべて話した。



「・・・そうか。あの後そういうことになっていたのか」
「はい。シンジは世界の再生を望みました。しかし、だれも戻ってはきませんでした。
 諸説あるのですが、アスカが残ったのは、シンジと溶け合うことを拒絶していたからだと思います。
 一番愛していて、でも一番憎い存在。自分にとっての他人の象徴。
 それがシンジにとってのアスカ、アスカにとってのシンジだったのでしょう。
 最後は、シンジがアスカの首を絞め、アスカが『気持ち悪い』と言ったところで映画は終了。
 これもにも諸説あるのですが、アスカがあんなことを言ったのは、
 シンジと二人きりの世界を拒絶したから、サルベージされた肉体に魂が定着していなかったから、
 というのが理由としてあるようです」
「しかし、なぜアスカ君はシンジを拒絶したと思う?」
「『貴方が全部私のモノにならないなら、私はなにもいらない』といっていましたから、
 シンジの心を自分と同じくらい、綾波レイが占めていることが許せなかったのでしょう」
「・・・そうか」


キール(ゲンドウ)はそれきり黙ってしまった。
だが、俺にはもう一つ言わなければならないことがある。シンジのことだ。
「もう一つ、申し上げたいことが」
「なんだ」
「私たちにとっては、これが一番重要なことでしょう。シンジのことです」
「なんだと?」
「碇シンジ。おそらく彼は、サードインパクト後の世界から逆行して来ています」







前へ

次へ

戻る

小説TOP

TOP