サキエルは、右腕を残し、跡形もなく消し飛んでいた・・・・






シャーマンシンジ

第4話







同時刻

初号機・コア内部


「・・・・・ここは?」

目の前に広がっているのは、少し赤みをおびた空間。
見渡してみても、建物、人影はおろか、ここには天も地もないようだ。
不意に、首に後ろから手がまわされた。
シンジは振り向く

「ここは初号機の心の世界です」
「クルハ?どうしてその姿に?」

クルハとは、狐だったはずだ。
だが、今シンジの目の前にいるのは、金髪の美少女。年齢は16歳くらいだろうか。
身長は160位なのだが、似合わぬほどの大きな双球が胸についている。
それだけなら立派な魅力的な美少女なのだが、しかし普通ではなかった。
頭からは大きな狐の耳が生えているのだ。

「だってシンジさんつれないんだもの」
「つれないってなんだよ」
「だって狐の姿だけで、この姿になるの許してくれなかったから」
「その姿のクルハは目立ちすぎるんだ。
 前に一緒に町を歩いた時だって、何回も絡まれたりしたじゃないか。
 狐の姿だったから、ミサトの時だってあまり混乱させなくてすんだんだし」
「でも・・・・。デートできるって楽しみにしてたのに」

恨めしげにシンジを見る。それはとても扇情的で、思わずシンジは抱きしめた。

「分かったよ。今度町の探索も兼ねて、デートしようね」
「・・・・・本当ですか?」
「うん」

一転してにっこりと笑うクルハ

「約束ですからね」
「約束しました。ところで、ここが初号機の心の世界って本当?」
「本当です」
「でもどうして僕はここに?ただ話をしようと思っただけなんだけど」
「この初号機ですけど、今まで自分と話をしてくれるヒトはいなかったようです。
 シンジさんが話をしてくれるという事が嬉しくて、つい」
「つい?」
「取り込んでしまった、と」
「話をするくらいで取り込まれたら堪んないよ」
「ですが、取り込まれなければ、話す事ができなかったのも事実です」
「ふ〜ん、まぁいいけどね。ところで、話すのはいいとして、
 もし仲違いを起こして襲われたりした場合、僕はここで戦えるのかな?」
「それは大丈夫な様です。ここは、言ってみれば規模の小さい地獄、といった所のようですし」

クルハがそう言った時、シンジの右腕には、さっきまでは無かった殺生石のブレスレッドが

「確かに、すべてイメージしだいみたいだね。ところで、肝心の初号機君はどこに?」
「あちらから気配がします。ただ、2人いるようですが・・・・」
「2人?・・・・・・あっ!多分母さんだ」
「お母様?」
「うん。10年くらい前だけどね。実験中に取り込まれたんだ。
 あの実験に使ってたの、この初号機だったんだ」
「どうしますか?」
「とりあえず、初号機の方は僕に任せて。クルハはサキエルをお願い。
 初号機に憑依すればたぶん動かせるだろうから、殲滅しておいて」
「わかりました」

そう言って、クルハは消えた。

「さて、僕も行こうか」








10年ほど前から、ここには2人の人間がいた。
いや、正確に言えば、一人の人間の女と、
もう一人は人の形をとりきれていない、靄(もや)のような影が。
女と比べて、影の方は随分と小さい。
実は、10年前、何かが心の中に無理やり進入してくる気配を感じて、影は目を覚ました。
だが、目を覚ました時には、既に女によって自分は拘束されており、
それ以来ずっと女は影を殺そうと首を絞め続け、
影は薄れ逝く意識を何とかつないで、女から逃れようと抵抗を続けていた。
女が自分の首を絞め始めて10年が経ち、抵抗もむなしく影の意識は途絶えようとしていた。
だが、意識が途絶える寸前、女は手を離した。そして虚空を見つめて

「この浮気もの!」

そう言って腕を一閃。
影はその時、自分の体の支配権が既に女にあることを知った。
その後女は再び首を絞めようとしてきたが、何とか振り切って逃げ出した。
そして、自分に話しかけてくる存在に気づいた。
その存在は、自分に対し友好的な意思を持って接してくれている事が読み取れた。
影は、嬉しくなった。
目覚めてからずっと、自分が受けた事のある感情は女の物だけであった。
しかも、女は自分に対して憎しみを抱いた感情しかもっていなかった。
けして好意を向けられた事は無かったのだ。
影は、自分と話そうとしてくれている存在があるのが嬉しくて、
そして助けて欲しいという気持ちもあり、
最後の力を振り絞って、その存在を取り込む事に決めた。

女の名は碇ユイ。影の名を初号機と言う。



  
  
  
  





「やめろ」

やっと初号機に追いつき、今まさに首に手をかけようとしたところで、ユイは呼び止められた。
その隙に、初号機は声の主の後ろへ逃げ込んだ。

「・・・・あなたは誰なのかしら?どうやってここへ来たの?」
「僕は碇シンジ。この子に呼ばれて来たんだよ」












第3実験室

「目標をセンターに入れて・・・・スイッチ!」

バババッ!バババッ!バババッ!

「目標をセンターに入れて・・・・スイッチ!」

バババッ!バババッ!バババッ!

「目標をセンターに・・・」







シンジにとって、どうやら今日は厄日だったらしい。
朝食の時から、ミサトはやたらくっついてきてなんか暑苦しいし、
NERVに着いてからも腕を絡めてきたりしたものだから、
男性職員から嫉妬の視線をやたらと受けた。
特に、発令所で紹介されたオペレータ−のめがね(日向さん)は、
もう一種の呪いに匹敵するほどの感情をぶつけてきた。
今夜あたり、彼の生霊に襲撃されるかもしれない。
行く先々でチクチクと嫉妬の視線を受け、(さすがにこれじゃ疲れるなぁ)
と思っていたのだが、リツコの研究室に近づくにつれ、
受ける視線が嫉妬から憐れみへと変わっていった。
さすがに不思議に思っていたのだが、研究室の前に立った途端、その理由に気づいた。
リツコの部屋の扉から、何か禍々しいオーラがあふれている。
気を取り直して部屋に入ったのだが、一歩足を踏み入れた瞬間

プスッ

と音がして、ミサトが倒れこんだ。
見ると、注射器を持ったリツコが立っていた。
口元には笑みが浮かんでいて、親友(?)の姿を面白そうに眺めている。
ミサトは、床に倒れた後、口から泡を吹きながら痙攣していたが、

ピクンッ!

とひときわ大きく痙攣し、

「うふふ、うふふふふふふふふふふ」

と、虚空を見つめたまま笑い出した。
リツコは、首をかしげ

「ん?変ね?」

と言って、別の注射器(紫色の液体が入っている)を取り出し、ミサトに注射した。
ミサトは、とうとう動かなくなった。

「大丈夫よシンジ君、死んでいるわけではないわ」
「・・・・・これのどこが大丈夫なんだか」
「中和剤を打ったから心配いらないわ。
 それにしても・・・・動物実験とはまったく違う結果になったわね。
 何がいけなかったのかしら?」

リツコは、ミサトを見ながらつぶやく。

「動物実験て何なの?義母さん」
「さっきの注射よ。マウスに打ったら、通常の4倍くらいのスピードで走り回ったのよ。
 犬に打ったら知能指数が上がって、3桁の掛け算ができるようになったわ」
「それは・・・すごい」
「そうでしょう?まぁ、どちらも2日もたなかったけど」
「もたなかった?」
「何故か溶けてなくなちゃったのよ。跡形も無く」
「・・・・ミサトが溶けたらどうするつもりだったんだ」
「あぁ、その可能性は考慮してなかったわね」
「・・・・・・」

シンジ絶句。あの憐れみの視線の正体が分かった。
赤木リツコはマッドだったのだ。
(これは・・・義母さんと呼ぶの早まったかな?
 息子になった途端これ幸いと実験につき合わされたらたまらない)

「じゃ、僕はこ「ちょっと待ってシンジ君」・・・・」

腕をガシッと掴まれた。

「昨日病院では簡単な検査しかしなかったから、
 今日は時間をかけてじっくり検査をしたいの。
 初めての使徒戦だったし、何か異常があるかもしれないわ」
「いや、僕は大丈夫だから」
「さあ、こっちよ。ついて来て」
「・・・・話し聞いてない」

動かないミサトを置いて、リツコはさっさと部屋から出て行く。

「・・・・はぁ」

シンジは、思わずため息が漏れた。






あれから3時間、じっくりと検査をされた。
裸にされたり、逆さまに吊るされたり、血を抜かれたり、変な薬品を飲まされたりした。
終わった時には、シンジは少しやつれていた。
その後、復活してきたミサトと共に、昼食抜きで射撃シュミュレーション。
それもかれこれ1時間続いている。

「シンジ君の様子はどうかしら?」
「初めてでこれなら、中々のものね」

シンジは黙々と射撃シュミュレーションを続けている。

「シンクロ率はどのくらいなの?」
「・・・・それが0なのよ」
「ゼロ?じゃなんで動くのよ」
「それが分かれば苦労はしないわよ。今マヤと原因を調べてるところ。
 それにしても、さすがシンジ君。私の息子として相応しいわ」
「は?」
「だって、シンクロ率0%で動かせるのよ?これを解明してこその科学者じゃない。
 やりがいがあるってものだわ。これが終わったら付き合ってもらおうかしら」

そう言って「うふふふふ」と笑うリツコ。
ミサトは思った。このままではシンジ君が死んでしまう!と。

「きょ、今日はもうやめておいた方がいいんじゃないかしら?
 シンジ君も疲れてるみたいだし」
「心配要らないわミサト。この薬を飲めば、
 ちょっとやそっとの疲れなんてたちどころに回復するから」
「そんなの飲んで副作用があったらどうするのよ!」
「ミサトは心配性ね。大丈夫よ。効果は1日。切れた後は、まる2日くらい寝込むだけなんだから」
「寝込んでる間に使徒が来たらどうするのよ・・・・。
 そ、それに2日寝込む事になるのなら、今日はゆっくり休ませて、
 明日明後日と実験する方が時間も取れると思うけど?
 寝込んでたら何もできないでしょう?」
「それもそうね」

そう言って薬をしまい込むリツコを見て、ため息をつくミサト。
(シンジ君、あなたの事は私が守るわ。だから安心して。
 だいたい、シンジ君が寝込んだりしたら入院させなきゃいけなくなるじゃない。
 そんな事になったら、修行できないじゃないの!まったく。
 修行の為よ修行の。け、けして添い寝がしたいからという訳じゃ」
「ミサト・・・添い寝ってどういうことかしら?」
「へ?」

どうやら、最後の方は口に出していたらしい。

「ほ、ほら!シンジ君、急に呼び出されたと思ったら、いきなり使徒戦だったでしょ?
 だから、恐い夢とか見ないように、お姉さんがついててあげようかなぁって」
「そのついでに食べちゃったのね」
「ば、馬鹿いわないでよ!そんなわけ無いじゃない!」

周囲の職員からも、疑いの目を向けられるミサト。
後日この話がNERV中に広まり、某めがねのシンジに対する嫉妬は格段に増した。

「あの〜」
「何かしら?シンジ君」
「もうそろそろ終了していいかな?」

ずっと射撃を続けていたシンジが、さすがに疲れたからと言った。

「そうね。今日はここまでにしましょうか。
 ところでシンジ君。ミサトと寝てるって本当かしら?」
「確かに一緒に寝てるけど、変な事はしてないよ。
 ただ、今朝は苦しくて起きたら、なぜかミサトが足で僕の首を絞めていて、
 息ができなくて死ぬかと思ったけど。寝てる間に上下逆さまになるなんて、
 ミサトってかなり寝相悪いよね。いつの間にか下着だけになってたし。
 早く直さないと、結婚できないよ?」
「シンジく〜〜〜〜〜ん」

さめざめと涙を流すミサト。他の皆はといえば

「不潔です!」「うらやましい」

マヤは何時もの台詞。男性職員はミサトの下着姿を想像したようで、
女性職員に白い目で見られている。
リツコはなにやら考えていたが、ミサトに歩み寄り、肩に手を置くと

「ミサト、あなたに義母さんと言われるのだけは御免だわ。
 どんな手を使っても、シンジ君と結婚はさせないからそのつもりで」
「うわ〜〜〜ん!!」

ミサトは、とうとう泣きながら部屋を飛び出していった。

「・・・・ちょっとからかいすぎたかな?」








プシュッ

「失礼します」

その1時間後、シンジは司令室にいた。

「シンジ、話とはなんだ?」
「初号機のことで少し話したい事があるんだけどね、父さん」
「用件は早く言え。私は忙しい」
「その言い方は無いだろう、碇。すまないねシンジ君」
「いいんですよ、冬月先生」
「うん?どうして私が先生なのかね?」
「覚えていませんか?昔会った事があるんですけど。
 その時に、母が『冬月先生』と呼んでいたので」
「君は・・・・覚えていたのか」
「ええ。母が実験中に取り込まれるところも」
「な!そ、そうか・・・・・」
「そんな顔しないでください冬月先生。先生が気にする事ではありませんよ。
 あぁ、それで話したい事なんだけどね父さん。その実験にも関係があるんだ」
「どういうことだ?」
「初号機、というか碇ユイなんだけどね。取り出したいから協力してもらえないかな?」







次へ
前に戻る
戻る
小説TOP

TOP