「初号機、というか碇ユイなんだけどね。取り出したいから協力してもらえないかな?」







シャーマンシンジ

第5話








「どういうことだシンジ!」
「だから、初号機から碇ユイを取り出したいの。サルベージだっけ?
 やり方は知らないけど、僕も手伝うし、必ず成功させるから協力して欲しいんだ」
「しかし、シンジ君!我々も幾度となく試したが、成功しなかったのだ」
「分かってますよ冬月先生。確か、それで碇ユイのかわりに出てきたのが綾波レイだったよね」
「何故それを知っている、シンジ」

ガチャリッ

懐から銃を取り出し、シンジに向けるゲンドウ

「落ち着け碇!」
「そうだよ父さん、落ち着いて。先のサキエル戦で僕取り込まれたよね。
 その時に知ったんだよ。そう、サルベージが成功しなかった原因もね」
「なんだと?」







サキエル戦時・初号機内部


「・・・・あなたは誰なのかしら?どうやってここへ来たの?」
「僕は碇シンジ。この子に呼ばれて来たんだよ」
「シンジ?本当にシンジなの?」
「そうだよ母さん」
「あぁ、シンジ。大きくなったわね。元気だったかしら?」
「多分ね。それより母さんはここで何をしていたの?
 それに、この子をどうするつもりなのさ」

そう言って、初号機の頭をなでるシンジ。
それを見たユイの眉がつり上がる

「シンジ、それは危険なのよ。早く離れなさい」
「どうして?僕にはまったく危険な感じはしないんだけど。ねぇ」

うなずく初号機

「シンジ、騙されては駄目よ。離れなさい」
「というか母さん。この子をどうするつもりなの?」
「言ったでしょうシンジ、それは危険なの。殺さなければいけないわ」
「どうしてさ」
「それがいる限り、この初号機はすべて私のものにならないわ。
 ふとした切っ掛けで体のコントロールを奪われるか分からないもの。
 そうなったらシンジ、私だけじゃなく貴方にも危険が及ぶのよ」
「なんで?」
「なんでって、私が動かしている間は、どんな事があってもシンジを守って見せるわ。
 けど、それがコントロールを奪ったら、貴方を守れない。
 それどころか貴方に危害を加えようとするかもしれないわ」
「この子はそんな事しないよ。それより母さん、あなたの方が危険な気がするよ。
気がついてる?自分の顔に。ひどい顔だ」

ユイの顔は醜く歪んでいた。
眉間には深いしわが刻まれ、頬はこけ目にはくまができている。
眼光は鋭く、ぎらついている。
シンジは、ユイのこの姿に見覚えがあった。
ユイの顔は、修行のさなか地獄で見た、嫉妬・恨み・妬みなど、
負の感情に歪んだ魂たちの顔にそっくりだったのだ。

「あ・・・なによ・・・これ・・・。
 そんな・・・どうして・・・どうして戻らないの!」

ここはイメージの世界。それ故、今自分がどんな表情をしているか、
ユイには分かってしまった。だが、いくらイメージしようとしても、
元の顔には戻らない。昔の自分を思い出す事もできなかった。
この10年で、ユイの魂は醜く歪み、凝り固まってしまっていたのだ。

「そんな・・・どうして」
「ねぇ母さん、提案があるんだけどいいかな?
 母さんは殺さないと駄目だって言ったけど、僕は、この子は信用できると思うんだ」
「ブツブツ・・ブツブツ」
「だから、母さんがいなくても大丈夫だと思う。
 この子は僕に危害を加えたりはしないよ」
「ブツブツ・・・ブツブツ」
「母さんちゃんと聞いてる?それでね、戦いは僕とこの子に任せて、
 母さんは外に出てみないかな?父さんも逢いたがってると思うんだ」
「ブツブツ・・・うふふふ」
「あ!でも母さん、1つ言っておかなきゃいけない事があるんだけど、
 実は父さん、今付き合ってる人がいるんだ。リツコさんていうんだけどね」
「ふふふ・・・そう、そういうことね」
「まぁ母さんは10年前に死んだ事になってるんだからしょうがないよね。
そこら辺は当事者どうしうまく話し合っ『ザシュッ!』痛っ!」

シンジの左腕は深く切り裂かれていた。

「何をするんだ母さん!」
「ふふふ・・・おかしいと思ったのよ」
「母さん?」
「だって、シンジがここに居る筈ないもの。
 シンジが初号機に乗る事になるのは前々から分かってたわ。
 だから、今乗っていても不思議じゃない。
 でも、ここへはエヴァ側から取り込もうとしなければ来れない。
 もちろん、私はそんな事はしないわ。
 もし取り込んで計画に支障をきたしたらいけないもの。よほどの事がない限り取り込む事はないわ」
「計画?」
「貴方には関係ないことよ。
 ・・・でも、本当にその姿は良くできているわね。
 魂の色まで真似るなんてすごいわ。
 そうねぇ、その姿に免じて教えてあげてもいいかしら?
 私は大学にいた時にある書物を見つけたの」
「・・・・・・」
「それは発見された場所から『死海文書』と言われていたものだったのだけど、
 今まで誰もまともな解読をしたことがないものだったの。
 そのこともあって、私の研究心はすごく刺激されたわ。だから解読する事にしたの。
 それには面白いことが書かれていたわ。それは、此処とは違う何処か、
 いわゆるパラレルワールドの記録だったの。
 死海文書によれば、その世界はこの世界と殆ど変わらないものだったみたい。
 この世界と同じような人間も暮らしていたみたいね。
 でも、この世界とは決定的に違っていたものがあった」
「・・・それで?」
「その世界には神が実在したの。それに、人間は1種ではなかったの。
 人間は18種いて、始まりの人が2人、この2人には一応性別もあったみたい。
 だから私は男のほうを『アダム』、女のほうを『リリス』と呼ぶ事にしたわ。
 聖書からとってね。この2人は、初め他のどんな生き物にも劣る能力しかもっていなかったの。
 ただ、何か問題に直面した時、それを解決できるように自己進化ができるようになってたみたいね。
 そして、始まりの2人とほぼ同時期に生まれた人が15種。
 これは、始まりの2人が直面した問題の中で、
 特に困難だったものにそれぞれが突出した適応能力を持つように作られたようね。
 例えば水中や高温、低温や空中、真空空間といったものね。
 ただ、これらの人間は個体数が限られていて、
 神が必要に応じて創っていたみたいなのよ。特に始まりの2人は1人ずつしかいなかったみたい。
 そのかわり、自己進化能力は始まりの2人が高く設定されていたようね。
 一番自己進化能力が高かったのはリリスで、
 最終的には他の15種の能力すべてをみにつけていたみたい。
 この17種は、個体数に制限がある代わりに寿命は長かったようね。
 特に始まりの2人は神が手を下すまでは死なないよう創られていた。
 そして、最後の18番目が、私達に最も近い人間。
 これは始まりの2人や、その後の15種の様子を見て創られた人間みたいね。
 素材には『アダム』と『リリス』を使って性別を持たせたみたい。
 わたしはこの人間を『リリン』と呼ぶ事にしたわ。
 このリリンは、今までの人間とは違う可能性にかけた種で、
 能力は初めの頃のアダムとリリスの2人みたいに、他の種と比べてかなり劣っていたみたい。
 自己進化能力も殆どなかった。適応能力はあったみたいだけど。
 ただ、この種は男と女による『繁殖』ができるようになっていた。
 代わりに寿命がかなり短く設定されていたけど。
 リリンは、繁殖を繰り返しどんどん数を増やしていった。
 自己進化能力は低いけど、代わりに知恵を使う事を覚えた。
 初めは身の周りにあったものを道具として、その後それらを改良していく事を覚えた。
 結果、リリンは種としては最低の能力しかもっていなかったけど、
 知恵を使って道具を創り利用することで、他の種と同等クラスの力を使えるようになった。
 そして、最終的にリリンは神に謀反を起こした。
 アダムたちリリンを除く16種は、神についた。
 ただ、リリスは母親だったからかしら?リリンについて戦った。
 ただ、神は直接手を下す事はしなかったようだけど。
 戦争は数百年続いた。初めはアダム側が有利だったけど、
 殺しても殺してもリリンは安全な場所で繁殖を繰り返し個体数を増やす。
 それに最強のリリスもついているしね。
 そして、長い年月をかけて科学を発展させ、
 とうとうリリンはリリスの能力を持ったリリンを生み出す事に成功した。
 結果、人間はアダム達に勝つ事ができた。でも、神には勝てなかった。
 アダム達を倒した後、神に直接戦いを挑んだリリン達は、
 その怒りをかって、一瞬にして全体の半数以上が死んだ。
 神の怒りはそれで収まったんだけど、リリンは執念深かった。
 そして、ある事を思いつく」
「あること?」
「リリスには癒しの力があった。戦いで失った体の部位を再生させたり、
 荒んだ心に干渉して癒したりする力が。
 そして、戦争ではリリスはこの力を戦う為の力として使った。
 つまり、再生ができるという事は破壊ができるという事。
 リリスの力は、生き物が自分を形作っている力そのものに干渉できる力だったのよ。
 だから、失った部分の情報を再構築して再生させたり、
 逆に情報を操作する事で、生き物に『自分』の形を忘れさせたりすることができた。
 『自分』を忘れされられた人間は、形を保つ事ができず溶けてしまう。
 そして溶けたもの、私はこれを『LCL』と名づけたけど、
 リリスはこのLCLに干渉して、新たに人間を作り出すこともできた。
 しかも、元になった人間の能力をすべて備えた人間をね。
 私は、人が自分を形作っている力を『ATフィールド』、
 リリスのATフィールドに干渉できる力を『アンチATフィールド』と名づけた。
 リリンはそこに目をつけた。つまり、ある程度まで数を増やし、
 リリスを依り代としてリリンすべてを1つに統合し、新たな1つの生命体として誕生させたのなら、
 神に勝てるのではないか、とね。
 それにはまず、リリスの完全なコントロールが必要だった」
「コントロール?協力してもらえばよかったんじゃないの?」
「リリスは、人を1つに統合する事を拒否していたの。
 それにリリンにしてみれば、今は味方だけれど、何時裏切るかもしれない違う種。
 だから安全に、より確実に計画を実行する為には、リリスのコントロールが不可欠だった。
 そしてリリンはそのすべを開発した。
 このエヴァのコントロールシステムにも流用されているものよ。
 数人がわざとリリスに取り込まれ、心の内部からリリスをコントロールする。
 そして、外部からは『操縦者』が自分の体とリリスの体をシンクロさせて操作する。
 ただシンクロするにはリリス内部の『内包者』の人間とシンクロできる必要があったから、
 操縦者には必然的に内包者の近親者が選ばれる事になった。
 ちなみに、エヴァの操作システムもこれを基にして作られているわ。
 だから、この初号機に乗れるのはシンジだけの筈だったのだけど・・・。
 ゲンドウさんが余計な事をしたから、そこにいる初号機の魂の大部分が、
 私の生体情報と共に外に出てしまった。あの人はそれを『綾波レイ』と呼んでるみたいね。
 元々初号機自身だったし、私の情報も持っているから、私が拒絶しても少しは動かす事ができる。
 だからあの子は例外ね。ゲンドウさんは初号機にシンジを乗せたくなかったみたいだから、
 僅かでも動かす事のできるレイに操縦を任せようとしたみたいだけど、動かすだけで精一杯。
 とてもじゃないけど戦いなんてできないわね。ATフィールドも展開できないみたいだし。
 話が逸れたわね。内部と外部からリリスをコントロールしたリリンは、ついに計画を実行する。
 でも、すべてのリリンがLCLになり、リリスと1つになろうとした時にそれは起こった。
 リリスが最後の抵抗をしたの。そして計画は失敗。リリンは、リリスと共に自分の形を失い、
 1つになる事はできたけど、自我を持たないLCLだけになってしまった。
 この要因は、リリスの自我を破壊しなかったことにあると私は考えたわ。
 リリンはリリスの自我を封印はしたけど破壊はしなかった。
 だから、最後の最後で封印が解け、リリスが1つになる事を拒絶した為、
 リリスとリリン共々自我が壊れ、自分を消してしまったの。
 死海文書はこれでお終い。死海文書は、その世界のコンピュータが記録していたモノを、
 この世界の古代人が、どんな方法かは分からないけど発見し、
 自分達の言葉に翻訳して記録したものだったのよ」
「でもこの世界には関係のないものだ」
「言ったでしょう?その死海文書に書かれている世界とこの世界は似ているって。
 だから私は考えた。この世界にも『アダム』は存在するのではないか?と。
 幸い、碇の家は財政的にも恵まれていたし、交友関係もそういった家が多かった。
 キールお爺様もその1人。お爺様はヨーロッパを中心に絶大な影響力を持っていた。
 だから、キールお爺様を説得する事は計画には必然だった。
 説得するのは簡単だったわ。お爺様は敬虔なクリスチャンだったし、
 戦争ばかりの世界の行く末を憂いていたから、
 人類を1つにすれば、争う事もなくなるし、互いに心の補完ができるから、
 悲しみや妬み、憎悪といった負の感情を持つ事もなくなり、皆幸せになれる。
 寿命もなくなるし、自分が『管理者』となって神の代わりに世界を管理すれば、
 もう2度と戦争も起きなくなる、って言ったら喜んで乗ってきたわ。
 そして1999年、ついにこの世界の『アダム』と『リリス』を見つけたの。
 ただ、死海文書と違っていたところがあったわ。
 アダムは既に死海文書の最終あたりの、能力が完成されたものだったし、
 リリスは反対に初期あたりのアンチATフィールドをもっているだけの存在だった。
 そして決定的に違っていたのは、アダムとリリスが種のリセットキーとして存在していた事だった。
 この世界でのアダムとリリスの役割は、文明を築いた種が、ある程度以上成長しないように、
 危険域に入ったらアダムがその能力を持って直接的に文明を滅ぼし、
 それでも駄目だったらリリスがアンチATフィールドを使い、その種をLCLにして滅ぼす。
 調査した結果、アダムとリリスはジャイアントインパクトの時に地球に衝突した隕石、
 その中にいた事が分かったの。隕石は2つ。南極に堕ちた物と、このジオフロントの2つ。
 恐竜が滅んだのは、ただの余波だったようね。
 さっきも言ったけど、アダムの能力は完成されていた。目覚めてはいなかったけどね。
 そのままずっと眠っていてくれればよかったのだけど、
 未だ自我の確立していなかったリリスを起こせば、アダムが強制的に目覚める事が分かった。
 これはリリスの利用を危惧した存在、つまり、アダムとリリスを送り込んだ高位次元生命体が、
 阻止する為に設定していたみたいなの。利用させるくらいなら、消滅させるように。
 だから、まずはアダムの力を奪う研究がされた。
 私たちは死海文書にのっていた槍、『ロンギヌスの槍』と呼んでいるけど、
 アダムとリリスの細胞をまぜ、培養して創った槍を創る事にしたわ。
 この槍は、死海文書の神にすら傷を負わせたとされる槍で、これならアダムを滅ぼせると思った。
 それで南極にいるアダム討伐に行く事になったんだけど、肝心な人手が足りなかった。
 それで私はゲンドウさんの友人である葛城博士を利用する事にしたわ。
 博士は当時、SS(スーパーソレイド)機関を提唱していて、学会から煙たがられていた。
 幸い、アダムの持っている能力に似たような物があったから喜んで乗ってきてくれたわ。
 私もアダムのエネルギー源については疑問があったけど、博士が解析してくれて本当に助かったわ。
 そして、2000年南極での実験。
 アダムを滅ぼすには、アダムを目覚めさせ、SS機関が作動している時に
 コアに槍を打ち込む必要がある、という事は既に分かっていたから、
 アダムにコンタクトを取って目覚めさせる存在が必要だった。
 それに選ばれたのは『葛城ミサト』。彼女は本当に良くやってくれたけど、
 もう少しのところでリリスが目覚めてしまった。
 リリスは、目覚めて直ぐに安置されていた東京と共に数十発の核ミサイルで吹き飛ばしたけど、
 その影響を受けてアダムが暴走を起こしてしまった。
 そして槍をコアに受けて溜まっていたエネルギー爆発。これがセカンドインパクトね。
 アダムは、爆発によって分裂、世界中に飛び散った。
 この飛び散った欠片が成長したモノが『使徒』よ。
 リリスだけど、こちらも核で吹き飛んだものの、コアは無事だったから、ジオフロントに運んだの。
 でもリリスは目覚めていた。さっきも言ったように、
 アダムはリリスの利用を阻止するようにできている。だから、アダムの欠片たる使徒は、
 リリスを目指す。リリスを消滅させる為にね。
 だから私たちは考えた。人類を1つにする『人類補完計画』にはリリスは不可欠。
 でも、今の私達に例え欠片といえどアダムを止める手はない。
 そこで、南極に残っていたアダムの欠片を培養し、そこにコアとして人の魂を込めることで、
 私達に使徒に対抗する力を得ることが提案された。
 そして創られたのがエヴァ。ただし、初号機だけは特別に
 リリスのダイレクトコピーを素体として使う事が決まった。
 これは、リリス本体を使うと、自我に目覚める恐れがあったため。
 ただし利点もあったわ。コピーとはいえリリスであることにかわりはない。
 だからエヴァで唯一戦いの中で成長することができる。
 ただし、アンチATフィールドが使えなかったけれどね。
 よって、補完計画には結局リリス本体を利用するしかなかった。
 そして補完計画が発動した時、万が一リリスが自我を持っていた場合、
 成長した初号機によって、実力でリリスを抑える必要があった。
 抑えるというよりも、リリスを取り込むと言った方がいいかしらね。
 そうすれば、アンチATフィールドも使えるようになるはずだもの。
 ただ、計画を実行するには、アンチATフィールドをコントロールする人間が必要になる。
 その人間をコアとして初号機に取り込ませる事がね。
 そして、コアになるのは私。キールお爺様の信頼も厚かったから、
 裏切るとは考えなかったみたいね」
「初号機の操縦者たる僕が、それを拒絶した場合は?」
「貴方はシンジじゃないでしょう?まいいわ。
 その場合だけど、操縦者の意思は関係ないわ。
 だって、私がシンクロを拒絶していれば、操縦者の意思なんて関係ないし、
 何よりリリスと融合すれば、操縦者なしでも完全に動かせるようになるもの」
「それで?1つに融合してどうするのさ?
 管理って言ったけど、そんな事をしたら種として停滞するだけだ。
 幸福感という檻に囚われて、考える事を拒否し、管理者の意のままに生きるなど、
もはやそれは人間じゃない。ただの人形だ」
「そんな事はどうでもいいの。どうせ失敗するんだから」
「どういうことさ?」
「だって、皆が皆1つになる事を望むはずないでしょう?
 死海文書の世界では、神と対抗する為にすべてのリリンが1つになる事を望んで失敗したのよ。
 大半が望んでいない事が成功するはずないじゃない。もちろん、私も拒否するし」
「じゃあなんでそんな計画を?」
「補完計画自体、ただのカモフラージュよ。私の計画を実行する為のね。
 私の計画はただ1つ。アダムを滅ぼすことはもちろん、私自身がリリスとなること。
 現段階では、仮にリリスに融合したとしても、力が足りなくて取り込まれる事が落ちだわ。
 初号機のSS機関もうまく作動してないようだし、何より使徒じゃまになるしね。
 だから、使徒たちを倒し力もつけて、準備が整ったところで計画を実行。
 そして私はリリスと融合して不死の生命体となる。
 その結果私以外の人類が滅んだとしても、しょうがないことなのよ」
「それで、不死になってどうするつもり?」
「もちろん、高位次元生命体に逢いに行くの。
 だって興味あるでしょ?その結果たとえ私が滅ぼされる事になっても、それも仕方のないこと」
「そんな事の為に人類を犠牲にするの?」
「あら、もしかしたら、仲間として受け入れてくれるかもしれないじゃない。
 それに、もちろん他の事もしてみるつもりよ。アンチATフィールドを応用して、
 新しい生命体を生み出す実験もしたいわね」
「そんな計画の為に、息子も滅ぼすの?」
「そんなの当たり前じゃない」
「そう・・・・残念だよ、母さん」

再生するシンジの左腕の傷。ユイは驚愕する。
シンジは両手を高く上げ、振り下ろす。
次の瞬間、シンジの右手には鞭、左手にはには扇が握られていた。

「この鞭は禁鞭(きんべん)といって、中国神話の時代の仙人が使っていたとされるものだ。
 もっとも、実際はただの皮製の鞭にすぎないけれどね。
 ただ、僕のイメージするオーバーソウルの媒介としてこれ以上のものはない。
 この扇は狐九扇(こくせん)。素材として本人の毛を編みこんでいるからね。
 これも媒介としてはうってつけだ」

そう言ってユイを見るシンジ

「そして、これが僕の2段媒介、甲縛式(こうばくしき)オーバーソウル」

シンジの体が一瞬ひかり、黒を基調とした衣が現れる。
それは狩衣(かりぎぬ)といって平安時代の貴族の男が着ていた衣だった。

「九手衣(くいなでのころも)だ」

ヒュンッ

キィィイイン!

ユイが右手にATフィールドを纏って攻撃したが、シンジの九手衣に弾かれる

「無駄だよ母さん。そんな攻撃、僕には効かない。
 母さん、本当に残念だ。僕の思い出の母さんはとても優しかった。
 そんな母さんが僕は好きだったのに・・・・。
 あなたはここにいたら世界を滅ぼす結果しか生まない。
 だから、そとにでてもらう。という訳で初号機君、協力してもらえないか?」

そう言って初号機を見るシンジ

「この空間は母さんに支配権がある。だから僕も全力で戦えない。
 攻撃は防げるだろうけど、攻撃する力は殆どないといっていい。
 だから力を奪って動きを封じる事はできても、
 倒したり封印したりはできないと思う。
 そこで君にして欲しい事があるんだ。母さんは今度ちゃんと取り出す。
 だから、今は封印しようと思う。それに協力して欲しい。
 僕が力を奪うから、君は支配権を取り返して、母さんを封印をしてくれないかな?」

頷く初号機

「じゃあ頼むよ」

そう言ってユイに向かっていくシンジ。
ユイはATフィールドを張って逃れようとするが、鞭で打たれ、扇で殴られ、
段々と力を失っていく。元々負の感情に凝り固まっていたユイは、
シンジの浄(じょう)の力による攻撃に弱いようだ。
そして、ついにユイの力が初号機より弱まり、ついに初号機は支配権を取り戻し、
ユイを封印する事に成功した。

「遅くなりました」
「クルハ、サキエルはどうなったの?」
「苦炎(ぐえん)で倒しておきました。
 それより、ご母堂さまはどうされたのですか?」
「ちょっとね。後で説明するよ」
「はぁ」
「それより、母さんを封印したのはいいんだけど、このまま外に出るのは少し不安がある。
 どうにかして封印を強化できないかな?」
「私の尾を5本ほど残して封印を強化しておきましょう。これで暫くは持つはずです」
「分かった。じゃあ初号機君、碇ユイは必ず取り出すから、待っててね」

そう言ってシンジは外に戻った。







発令所



「何だったのかしら?あの攻撃は」
「分からないわ。ただ、初号機はATフィールドを発生させていなかった。
 それなのに、あの炎は中和もされていないサキエルのATフィールドをやすやすと破壊した。
 しかも、サキエル自体、右手を残し跡形もなく消し飛ばすなんて・・・
 あの炎、いったいどのくらいのエネルギーがあったのかしら?」
「先輩!エントリープラグに反応!モニターできません!」
「なんですって?もしかしてシンジ君、自力でサルベージするつもりなのかしら?」
「リツコ!とりあえず私は初号機のケージに行くわ」
「待って、私も行くわ」








初号機・ケージ内



「グルルルゥゥウウ」

ケージに到着したリツコたちは驚愕を隠せなかった。
エントリープラグがイジェクトされているのに、
初号機が唸り声を上げていたのだ。

「ちょっとリツコ、大丈夫なの?」
「分からないわよ・・・・!!エントリープラグが!!!」

プシュッ

プラグのふたが開き、中から人が出てくる。
それは、間違いなくシンジだった。

「ごほっごほっ」

シンジは、肺に残っていたLCLを吐き出す

「シンジ君!大丈夫なの?!」
「ん?あぁミサト、大丈夫だよ」

バタンッ

シンジはそう言って気を失って倒れた

「シンジ君!!」









司令室



「とまあこんな事があったんだよ。母さんを封印した後、初号機から色々話してね。
 サルベージの事も聞いたんだ。サルベージが失敗して、
 碇ユイの代わりに綾波レイが出てきた理由は、
 ひとえに碇ユイがそれを望んでいなかったから。
 では、なぜ綾波レイがでてきたのか?
 答えは、さっき言った通り、サルベージを拒否した碇ユイの代わりに、
 初号機の魂が、碇ユイの生体データを元に肉体を構築して出てきたものだったんだ。
 碇ユイに追い出された初号機の魂の一部がね」

司令室に長い沈黙が訪れる。
それもそうだろう。冬月コウゾウ、碇ゲンドウ共に、
碇ユイの理想に賛同してこの場所にいたのだから。
それが、ただ自分の欲求を満たす為だけの計画などと、今更信じられるはずはなかった。
それにこの2人、碇ユイの提唱した計画に背いてまで、
もう1度碇ユイに逢いたいと思い、ゼーレを裏切ってまで独自に計画を進めてきたのだ。
それがもう1度逢いたいと思った女が、そんな人間だったとは・・・・



初めに言葉を発したのはゲンドウだった。

「その話をどう信じろというのだ?確かに、我々でしか知りえない事も含まれていた。
 だが、お前が真実を話していたという証拠がどこにある?
 私にとってユイが全てだ。そのユイを信じてここまで来たのだぞ?
 今更そのような話をされたからといってどうしろというのだ?」
「別に、どうもしろとは言ってないよ。僕はただ、
碇ユイのサルベージをしたいから、その準備をお願いしたいだけなんだ。
 正直に言えば、僕達だけでもサルベージは可能なんだよ」
「本当かね?!」
「えぇ。ただ、肉体の構成情報が不安定になるから、5体満足とはいかないだろうね。
 綾波レイの時に、碇ユイの情報はかなり持っていかれているから、その分の情報が不足している。
 欠損部分を補うには、僕だけじゃ駄目なんだ。外部から欠損した情報を補わないと。
 それさえちゃんとしてくれれば、後は僕達のほうでサポートするから」
「・・・・・成功する確率は」
「碇?!」
「5体満足なら、サポートなしで10%、サポートありなら70%成功させてみせる」
「分かった。許可しよう。ただ、直ぐには準備できん。
 最低で3週間、余裕を持って1ヶ月といったところか」
「それでいいよ」
「ではそのように手配しよう。・・・・シンジ、1つ聞いてもいいか?」
「なに?父さん」
「お前はユイのことを・・・」
「好きだったよ。昔はね。優しい思い出しかなかったから。
 今は・・・・駄目だね。嫌いにはなれない。でも、もう好きになる事はないだろうね」
「・・・・そうか」
「だから父さん。父さんにはリツコさんと再婚して欲しいと思ってるんだ。
 リツコさんは気に入っているしね。
 大体、碇ユイは10年前に死んだ事になっているでしょ?だったら世間的にも問題ないよね」
「な、なんだと?!」
「という訳で、期待してるよ父さん」

プシュッ

そう言ってシンジは司令室を後にした。

「ふ、冬月」
「碇、そのくらいは自分で処理しろ。案外、再婚もいいかもしれんぞ?」









その夜

コンフォートマンション・葛城家



「シンジ君、司令とどんなこと話したの?」
「ん?まぁ色々とね。とりあえず、リツコさんとの再婚を勧めといた」
「へぇ〜、シンちゃんあんな目にあってるのに、リツコのこと気に入ってるんだ」
「まぁね」
「そういえばシンちゃん、もう準備はできた?明日から学校でしょ?」
「は?なんのことさ」
「あれぇ?言ってなかったかしら?シンちゃん、明日から学校よ」
「・・・聞いてないよ。また忘れてたなミサト」
「あはは・・・ゴミン」
「まぁいいけどね。それより、紹介したいヒトがいるんだよ」
「紹介したいヒト?」
「うん。おいで」

シンジがそう言うと、シンジの部屋から金髪の美少女(狐耳付き)が出てきた。
少女は、迷わずシンジに近寄り、シンジのひざの上に座った。

「改めて紹介するよ。クルハだ」
「えぇ?だって、クルハは狐だったんじゃ・・・」
「人に化ける事もできるんだよ。伝説でも、九尾の狐は美女に化けていただろ?」
「それはそうだけど・・・」
「改めまして、こうして話すのは初めてですね、葛城ミサトさん。クルハといいます」
「これはご丁寧に」
「ところでミサト、悪いけど今日の修行はなしだ」
「え〜!なんでよ〜!」
「・・・明日の準備をしなきゃいけないだろう?
 それに、結構『生霊』ってやっかいなんだよね。片手間で相手すると、後々面倒になるから」
「生霊?なにそれ?」
「たぶん、今日あたり日向さんの生霊が襲ってくるだろうからね。対策をしておかないと」
「なんで日向君の生霊が?」
「なんでって、お前がNERVで僕にべたべたしてたせいじゃないか。あれで嫉妬をかったんだよ。
 というわけで、今日の修行は生霊対策とお仕置きもかねて無し」
「ぶう〜」
「そんなことしても、まったく可愛くないよ。じゃあ明日の準備もあるからこれで。おやすみミサト」
「は〜い。お休みシンジ君。クルハ」
「おやすみなさい、ミサトさん」

クルハは、シンジに付いて部屋に入る。

「クルハちゃんねぇ。中々強力なライバルだわ。でも、負けないわよ!」

こうして、葛城家の夜は更けていった






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